「１／１　　ＡＭ００：０１」

１／１　　ＡＭ００：０１　光を失っていたデジタル時計の表示が再び時を刻みだす。

一日と一日の狭間に現れる奇妙な時間のこと、もう一人の自分のこと、自らの命と引き換えに自分を生き返らせてくれた少女のこと、圧倒的な絶望が襲ってくること、そしてそれは目の前に迫ってきていること・・・・・・。
記憶は消えることなく頭の中に存在していた。
どうやら戒は望月を殺さない道を選択したようだ。
戒のことを疑ってたわけではないが、眠る気にもならず、戒が自室に戻ったのを見届けた後、自身も自室に戻ってそのときを待っていた。
選択の責任を背負ってしまった少年ははなにを感じるているかとどうしようもないことを考える。
背負わしたのは自分たちだけれども、少しでもその負担が軽くなるようにしたい。

自然と溜息が一つ出てきた。
安堵の溜息か、残念という溜息か。正直自分にもわからない。
別に、知らないまま世界が終わってほしかったというわけじゃない。
大事な友人が、大切な仲間に殺されてほしかったわけでもない。
これはそんな思いとは関係ない、ただの自分の忘れたかったという身勝手な思いからだ。
忘れて逃げたかったものがある。
あの全てを見透かすように鋭い瞳を投げかける人物から。

（・・・・・真田サン）

白髪の一つ上の先輩に好きだと告白されたのはつい先日だった。
冗談でしょうと震える声で尋ねれば、冗談に見えるか？と真顔で返された。
男が男になんて、冗談にもならないじゃないか。
普通男が告白してきたのならゴメンナサイ、それか曖昧な返事をしてサヨウナラもう会えませんと返すだろう。
順平もそうすべきだと思った。　　
にもかかわらず即座に拒絶できなかった自分がそこにいた。
真田は本音で返さなければ許さないとだけ言って立ちすくむ順平を置いてその場を去っていった。

真田明彦というのは順平にとって不可思議な、そして危険な存在だった。
影時間に怯えていた順平を発見して保護したのは真田であるから、ある程度気にかけるのは当然のことだと思う。
（なんで、アンタはオレのなかにはいってこようとするんだ）
殴られたり、蹴られたりしたときにできた傷だって忘れてしまえばなかったことと同じ。
それは苦しいと訴えるよりも楽で。順平に騙しているという意識はない、なかったことにしているだけなのだ。
ヘラヘラ笑って、何もないふりをすれば、馬鹿みたいに能天気で、すぐに図に乗るお調子者、悩みなんか一つもない、「いつもの伊織順平」のできあがり。
そしてみんなそれに面白いように騙された。
表面だけの伊織順平を見てそれが全てだと思ってくれた。
ところが真田はそれを許しはしなかった。
平気だと嘘を吐く順平に気が付いては行動した。
あるときは苦言を告げたり、またあるときは苦しくないかと疑問を投げかけたり。
もちろん順平は空とぼけたが。
伊織順平は能天気なニンゲンなのだ。苦しみなんてあるはずない。
それでも真田は何度も何度も言葉を連ねた。
ほっといてくれればいいのに。
誰もそんな伊織順平を望んじゃいないのだから。

誤魔化そうとしても見破られることが何度も続いてからヤメロと本気で怒れば逆に嬉しそうな顔をした。
いっそ幼いといってもいい笑みを浮かべて、見つけたと言いながら。

真田と接しているといままで作り上げてきた自らを守る壁が壊されていくのがわかった。
せっかく作った伊織順平が壊されるかもしれない。
それは恐怖だった。しかし心地よさも同時に感じていた。
なんてことはない、自分で作った伊織順平を演じることに自分自身が疲れてきていたのだ。
（チドリもこういう気持ちだったのかな）
今更わかりはしないことがけど。
順平は良くも悪くも自分というものを理解していた。
容姿は普通。成績は下から数えたほうが早い。
どこにでもいる普通の人間で、だからこそ「特別」に憧れを人一倍抱いてた。
だからペルソナは格好の自分を特別と思えるチカラだった。
ＳＥＥＳの加入の誘いに是非もなく肯いた。
正義の味方なんて嘘っぱち。自分にとっては現実から逃げる手段の一つでしかなかったのかもしれない。

そんなどうしようもない自分を知っていて真田はそれでも猶順平を好きだと言ったのだ。
なかったことにするという選択肢は失われた。真田がそれを許してくれるはずもなかったが、真田が順平のことを忘れて、ただの同じ寮に住む後輩と認識してしまえば可能だった。
けれど賽は投げられ、戒は引き金を引かないことを決断した。
だから順平は答えを出さなければいけない。
真田明彦は伊織順平にとってどういう人間なのか。
学園で絶大な人気を誇るボクサー？
先輩？
助けてくれた恩人？
頼りになる仲間？
どれも正しい。

でもそんなことじゃなくて、もっと・・・・・・・・。

もっと？

（　わ　か　ら　な　い　　）

真田のことを考え続ける。

こたえ　は　すぐ　そこに　あるのに。


ＥＮＤ


あとがき
迷う順平。正月から微妙に暗いネタすいません・・・・。
明るいキャラクターの伊織順平を演じてる伊織順平、がおおもとのテーマだったのですが、上手くかけなかった。つーか意味不明！こんなのＵＰしてごめんなさーい！！！
明るい順平も順平ではあるんですが、一部であって全てじゃない。そう思って書きました。