「順平、アンタってさ」
「んー?」
「真田先輩とデキてるのよね?」
「ぶはっ」
密やかに唇同士を合わせる順平と真田。触れるだけの戯れのような一瞬の触れるだけのキスをして、二人は真田の部屋に入っていった。
ゆかりがその光景を見たのは偶然だった。戒に長い間借りたまま忘れ去っていたCDの存在を突然思い出し、返そうと下の階に下りたところで目撃したのだ。
それを見て始めに思ったのは「・・・できてたんだ」同性というタブーなはずの状況であったにも関わらず、不思議と嫌悪感は湧かず驚きだけだった。
見なかったことにして踵を返そうとしたその時、二人の様子を思い返してどこか違和感が存在することに気が付いた。
本人達では気付けない第三者のゆかりだからこそ気が付けた、ホンの小さな、ゆかりも説明できないが、確かに恋人とは違うその感触。
あれはなんだったのだろう?
疑問に思ったゆかりはこっそりと二人が話しているときの様子を観察してみた。
わかりやすい順平のことだから態度に出てるかなと思ったら、案外普通の先輩後輩として二人とも接していて、全くあの時に見せた甘い雰囲気を感じさせなかった。
そのためどれだけ観察してもあの時感じた違和感の正体もまた掴めない。
一端気になり出すと、延々とその理由について考えてしまって仕方がない。
散々悩んだ挙句、馬鹿らしくなって手っ取り早く聞いてみることにした。
単刀直入、順平本人に。
「とゆーワケなのよ」
「ソ、ソウデスカ・・・・」
今までの経緯を手短に話したゆかりは固まったままの順平に声をかける。
「別に嫌なら答えなくていーわよ?ただの興味本位だし」
ましてやけっこう常識人な順平のことだから、触れられたくない部分かもしれない。そう思ったゆかりは言葉を付け加えた。
しかし順平の返答は予想外のものであった。
「あー、付き合ってないからじゃねえか」
「はあ!?」
あれだけ甘い雰囲気を纏った姿を晒しておいて何を言ってる、どう見たって恋人同士だったではないか。
しかし順平は冗談でも、誤魔化しでもなく本気で言っているらしい。顔が本気だ。
「だって真田サンがシたいときにしかヤんねえし」
「じゃあどんな関係だっていうのよ」
「うーん・・・・セフレ・・・・かなぁ・・・・」
セフレ。それはまた順平には一番合わない言葉だ。
「・・・・どーゆー経緯でまたそーゆー仲になったのよ」
「えーと・・・押し倒されて、そのまんま?」
「抵抗とか拒否とかしときなさい」
「キモチイヨかったし、真田サン強引だし・・・・無理」
「嫌じゃなかったの?」
「さあ?、それ考える前に流されちゃったし」
(つまり何?先輩の策略に見事に嵌まって手篭めにされたわけ?)
「いやまあスキとかアイシテルとか言われるけどさ、ありえなさすぎだろ。あの真田サンがオレなんかにさ。多分真田サン血迷ってるだけだってー」
へらへら笑って告げるその言葉。しかしゆかりには順平の悲痛な叫びにしか聞こえなかった。
(ああもうイライラするっ!!)
かっとなって笑う順平に怒鳴りつけた。
「流されても噛み切っちゃえば良かったのよ!その後先輩が寝てるときにでも!そうすればできないんだから!!」
「ュ、ユカリっちそれはちょっとカゲキ過ぎ・・・」
「うーるーさーい!!いーい!?順平!あたしが見た限り、真田先輩はアンタに首っ丈!夢中!メロメロ!わーかーる!?」
「ハ、ハイ・・・・」
「先輩はそりゃあんな感じだけど!アンタを好きなのは・・・・ホントだと思うから。信じなさいよ」
「・・・・・・怖いんだ」
それは小さな小さな、たぶん本人も意識して口に出そうとしたわけじゃない、ひっそりと漏れた本音。
頭が急に冷えた気がした。
順平の瞳に諦めとも自嘲ともつかない色が浮かんでいる。
(・・・・・・・これだ)
これこそが違和感の正体。平気だと言い聞かせては予防線を張って、必死で傷つかないようにして。 期待を裏切られたときのためだけに。
その癖自分で張った予防線に引っかかって怪我をして血を流す。
しかも自分が傷ついてることに気が付いてない上に、血を流すその場所を抉るようなことばかり言って。
「・・・・・アンタ馬鹿でしょ」
「オレもそー思う」
きっとゆかりの言う馬鹿と、順平の思う馬鹿とは意味が違うのだろう。 しかし、それを言ったって耳を塞いでる順平は聞きはしない。
「心配してくれたんだろ?サンキュ」
儚げに笑う順平を見て思う。
ああ、これは自分では駄目だ。これはきっと二人で解決しなければいけない問題なんだろう。けれど
(これ以上泣かせたら絶対弓の練習の的にしてやる)
白髪の青年の姿を心に描き、密かに心に誓う。
しかし順平が自分の気持ちを認めるのが先か、順平が傷ついたことでゆかりが真田を射撃の的にするのが先かと考えると・・・・・。
たぶん後者が先なんだろなー、となんとなく思うゆかりだった。
(・・・・今夜のタルタロスのメンバーに入れてもらっとこ)
だったらその時までに力をつけておこう。
愛すべき不器用な魔術師のために。
(覚悟しといてくださいね?先輩)
END
あとがき
というわけで怒ってる女帝はゆかりっちでしたー。会長じゃあ予想通りかなと、予想外を目指してみました。 でもこの話だけ見たら、真田微妙に酷い人?
ウチのゆかりはこんな感じ・・・・。恋愛のクセに女傑っす。元「恋愛であればいい」・・・女傑すぎて変更しましたー。私のP3イメージ「男は可憐、女は強し」だからなあ・・・・・・。
この後「なんであたしがここまで順平のことでしなきゃいけないのよ!」とか言いつつ真田を撃破するかと。
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