9「隠者は嗤う」      


  たとえばメシ食ってて。

「ふー、食った食った」
カップラーメンから顔を上げたら、ちょうど同じように食べ終わった目の前の真田サンと目が合った。
なんか嬉しくて、にぱっと笑いかけてみた。

ぷい、とそっぽを向かれた。

・・・・・・・あれ?


たとえば学校の帰り道で。

あ、真田サンだ。
「真田サーン!!一緒に帰りませーん!?」
「・・・・・・・悪い、用事がある」

真田サンはスタスタと去って行った。

前はこんなことなかったよな?


たとえば夕方のラウンジで。

ターゲット:ソファに座ってグローブ磨きに夢中です。
ターゲット確認。行動に入ります。
後ろからこっそりと抜き足差し足忍びあ〜し・・・・。そりゃあ!
「さーなーだサーン!!」
がばっとイキナリ抱きついてみた。
「おわっ!?」
真田サンは立ち上がって首にしがみついたオレを振り落とすと、無言で階段の方に走って行った。

そんなに嫌がることねーじゃん・・・・・。


話しかけてもそっけない、用があったら人に頼んで伝えてくる、オレがいるとさりげなくパーティーに入るのを拒否する、まともな会話なんてここしばらくしてねえ。
その他たくさん。これってやっぱり・・・・


「オレ避けられてる?」


「どうした」
「荒垣サン・・・・」
オレの声に荒垣サンが近寄ってきた。心の中で言ってたつもりだったのに、いつの間にか声に出してたみたいだ。
ここは深夜のラウンジ。たまたまオレは用事で抜けてたんだけど、みんなは昨日頑張りすぎたせいで疲労か風邪でダウンしちまってる。
今日動けるのはオレと、同じように休んでた荒垣サンとあと一人だけ。
ちらっとその人の方を見る。その人・・・・真田サンはいつものようにソファでグラブを拭いている。オレと荒垣サンは奥の部屋にいる。
あ、目が合った。ので手を振ってみた。
けど真田サンはぷいってやっぱりそっぽを向いてしまう。

予想できたことだったけどやっぱ凹むなあ。

「オレ、何かしたッスか?」
「・・・・・アイツにもいろいろあるんだよ」
いろいろって・・・。荒垣サン、なんか知ってるなら教えてクダサイよ・・・・・・。
真田サンも荒垣サンもわけがわかんねえ。
溜息が勝手に出てくる。溜息出るたびに幸せが一個減るんだっけ?分かってても出てくるんだからしょーがねえ。
「おい」
しょんぼりとうなだれてると荒垣サンにちょいちょいと手招きされる。
「何スか?」
テーブルに突っ伏してた躰を起こして荒垣サンのところに行ってみた。
「別に気にしなけりゃいいだろ。なんでそんなに気にする?」
「・・・・・・・」
荒垣サンの言うとおりだ。嫌われたんならそりゃあ辛いけどほっとけばいいのに。
オレなんでこんなに必死になってんだ?・・・・・けど、このままでいるのは嫌なんだ。それだけは分かるけど、それ以上は分からねえ。
「その調子じゃ無自覚か」
「へ?」
大股で近寄って来たかと思うと、荒垣サンはオレの肩を掴んだ。
「!?」
荒垣サンの顔がアップになったと思ったら、唇に柔らかいもんが触れてた。

・・・・もしかしなくても、これ・・・・・・キス?

あわわわわわ、オレのファーストキスがー!!
目を白黒させてるうちに荒垣サンのベロがオレの口の中に入ってきた。
「んー!!」
逃げたいけどがっしりと掴まれてるからどうすることもできねえ。
荒垣サンの舌は好き勝手にオレの口の中を動き回る。
ってか、荒垣サン上手すぎ・・・・。
「ふっ・・・んっ・・・・ぁ・・・」
女かよこの声ともう一人の自分が冷静につっこんでるけど、どうしようもない。
足がガクガクする。
「・・・・・ぁ・・・・」
ダメだ、も、立ってられっ・・・・

「いい加減にしろ!!」

聞き覚えのある声と同時に後ろからまた肩を掴まれて強引に引っぺがされる。
気が付いたら、誰かの腕の中にいた。
顔を上げると厳しい顔をした真田サンが見えた。真田サンなんかもんのすごい怒ってるよ。
「アキ・・・イイトコなんだから邪魔すんなよ」
「ふざけるな・・・・っ」
「ふざける・・・?俺は本気だ」
「なっ・・・」
「それに避けて順平を傷つけてたテメエが今更何を言うんだ?」
「・・・・っ!」
言葉に詰まる真田サン。やっぱオレを避けてたんだ・・・・。
「だいたい好きにしろと言ったのはテメエだろう」
「・・・・・ああ、好きにしろと言ったさ」
「だったら・・・・・」
「だがな、惚れた奴が襲われてたら助けるだろう!!!」

・・・・・・・・惚れた?


「・・・・だ、そうだ。どうだ順平」

へ。
んな、いきなりコッチに話振られても。

なのに後はテメエ等だけで話やがれ。そう言って荒垣サンは立ち去った。
ひどいー!!言うだけ言っといてほってくのかよ!!

エ、エト・・・・

どーしよ?

なんか、嫌われてないってのは分かってホッとしたけど、大問題発生?

えーとえーとえーとえーと・・・・・

「フ、フツカモノデスガ、ヨロシクオネガイシマス・・・・・・・・」

あれ?オレ何言ってんだ?



☆オマケ☆

「いつまでそうやって逃げてるつもりだ」
「・・・・・」
「このままでいいとか思ってんのか?」
「・・・・・」
「・・・・テメエが動かないなら、俺が貰うぞ」
「・・・っ!、好きにしろっ・・」


荒垣は廊下を歩きながら数日前のやりとりを思い出して苦笑した。
好きにしろというので行動してみたらあの有様だ。あそこまで必死な顔は久しぶりに見た。
それだけ大事なら最初から逃げなければ良かったのに・・・・・大事だからこそ、逃げたのか?
(チッ、意地張りやがって。馬鹿な野郎だ)
真田は光に魅了されているのは自分だけじゃないことを知っておくべきだ。
取られてから後悔したって遅いのだから。
(ぐずぐずしてるから俺に手出されるんだ)
順平の性格からしてキスは初めてだろう。先が無い自分にはこれで十分すぎるくらいか。
真田がこれからどれだけ順平ににキスをしようが初めては一回きり。今更後悔したって遅い。

(手伝ってやったんだ。それくらいの役得があったっていいだろ?アキヒコ)



END

あとがき
さん→サンに変更。昔の修正する気・・・・・あんまなし。だってめんどいもん。
真田にとっては初恋で、順平の前でいつもの自分らしく動くことができなくて、でも告白して振られても嫌だし・・・って逃げてたみたいです。
朱理さんのリク内容は「荒垣と真田で順平の取り合い→勝者真田!」だったのですが・・・・・正直言って、真田に負けるガキさんが想像できませんでした。orz
そのせいで取り合いというより発破かけて譲ったような形に・・・・。朱理さん、こんなもんでどうでしょうか?気に入っていただけたらいいんですが・・・。