『ディアラマ』
眩い光に包まれ痛々しい傷痕がみるみるうちに塞がっていく。
それを見届けたあと長い髪の巨人が消えていった。
「スイマセン」
順平は壁にもたれかかったまま、回復魔法をかけた人間に礼を言うが返事はない。
帽子を被り直そうとして、掌が自身の血液でべっとり汚れていることに気付く。
すでに赤黒く変色していたことから色が帽子に移ることはなさそうなので気にせずに帽子のつばを握った。
たまに起きるアクシデントにより敵のまっただなかにいきなり一人で放り出された。パニックになりそうになるのを必死で堪えた。
風花の声にノイズが入り聞こえないこちも痛かったが、なんとか真田と合流することができた。しかし一息つくまもなくよりにもよって紫色のシャドウが二人を襲った。
氷魔法を得意とする相手だったため真田の援護は望めなかった。
順平の得意とするスキルは主に物理系のため、使うたびに体力を消費してしまう。
魔法も使えないこもないが魔力値が低いためあまり効果が望めない。
真田は弱点を付かれ斃れ伏したまま順平が一歩、あと一歩と死に近づいていくのを眺めることしかできない。
結果、身を削りながらの綱渡りのような戦闘が発生した。
事実順平はあと一回攻撃を喰らっていれば確実に斃れていただろう。
それくらい僅差の勝利だった。
辛くも勝利した後、レベルアップしたことには気付いていたがいつもの言葉を言う気力もない。
真田も先程からずっと無言だ。
時折どこかからシャドウの叫び声が聞こえてくる。はぐれてしまった残りの二人は無事だろうか。
順平は自分の横に立てかけていた武器を手に取ると真田に声をかけた。
「真田サン。オレもう大丈夫っスからそろそろ行きましょ」
しかし真田は動こうとしない。ただじっと順平を見つめるだけだ。
「早く合流しないと。オレらだけじゃキツイッス」
二人だけでは心もとないことくらい真田だって知っている筈だ。
「嫌になることはないのか」
ぽつりと真田が呟いた。
真田の言っている事が何を指してのことなのか分からず困惑する。
「戦いが嫌にならないのかと。俺の誘いに乗って、このSEESに入らなかったら。お前はこうして死にそうな目に合うことだってなく平穏に過ごせていたかもしれない」
グローブを外した手で傷があった場所をそっとなぞられる。うっすらと傷があったことを証明する紅い痕は明日には消えているだろう。今までだってそうだった。
「オレは足手まとい?」
「そういう意味じゃない。ただ、俺がお前をこちらに引きずり込んだんだ。それを思うと・・・・どうも、な」
真田の指が触れたままだった傷痕から移動して頬をそっと撫でる。
「何故だろう・・・・お前には、これ以上怪我をしてほしくないと思ったんだ」
自分の思いを口に出すことで確認するかのようにゆっくりと発音していく。
「すまん。俺らしくもない」
真田は自嘲するように笑うと順平に背を向けて歩き出す。
「オレは真田サンに、見つけられたこと感謝してます」
あの顔が消えることを祈って真田に背後から声をかけた。
逃げ出すことはいつだってできてた。
危ない綱を渡ったのも今回が初めてじゃない。
差し出された手を取ったのはまぎれもなく順平自身なのだ。
「・・・・そうか」
気付けば、何本もの手が蠢く黒い物体がゆっくりとこちらに向かってきている。
まだ見つかってはいないが捕捉されるのも時間の問題だ。
入り口が一箇所しかないこの部屋に逃げ場はない。
「行けるか?」
真田の横に並び軽く肯いて見せると、己の武器を固く握り締めシャドウを睨みつける。
大丈夫。まだ、戦える。
戦闘開始・十秒前。
END
ボツった台詞をこねくり回して再利用。
君となら死地もまた楽し、という昔読んだ小説の中に出てきたフレーズを書きながら思い出しました。いや死なないけどさ。できるなら入れたかった。
家にいた時の順平って刑死者(にっちもさっちもいかない状態)でもあったと思うので。
んで、魔術師はおもしろおかしく過ごそうという精神だよなあ。
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