料理と荒垣真次郎。
(意外っていやこれほど意外なのもねえよなあ・・・・)
規則正しいリズムで食材を刻む音がキッチンに響きわたるなか、荒垣の背中を見つめながら考える。
けれど長年愛用しているらしいエプロンは、意外なほどよく似合っていた。
「荒垣サン」
「なんだ」
「お母さんって今度から呼んでいっすか」
「ヤメロ」
本気で嫌そうな声が返ってきた。
「うーん・・・・」
「・・・・」
「おかーさーん」
「・・・・」
「おふくろー」
「・・・・」
「がっきー?」
「・・・・」
「ねえってばー!返事してー!」
「・・・・」
全くの無視。
「むうー」
ただ声を聞きたいだけなのに。
「・・・・・・・・・シンジロウ」
いつか呼んでみたいと思っていた名前を、ぼそっと呟いてみた。
「・・・・」
荒垣は相変わらず無言だったが、一定だった包丁のリズムが一瞬乱れたことに、順平はちゃんと気付いた。
(荒垣サンの料理はおいしいからスキ)
だけど。
(荒垣サンはもっとスキ)
END
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