望月綾時は女性が大好きだ。
男にはない柔らかさとか、高めの声、したたかさなんかも含めて大好きだ。
女性を落とすまでの駆け引きも楽しい。
だが女性全般が好きでも、女性個人への「特別」な好きがない。
私とこの子とどっちを選ぶの!?なんて言われたって「どっちも」としか答えられない。
綾時にとってみんな好き、それのどこが悪いの?というところだが。
博愛精神と言えば聞こえはいいが、節操なしと言えなくもない。
喩え付き合っている女性に振られても、ちょっと悲しむだけで次の女性に声をかけるだろう。
関係を保つための努力は欠かさないが、浅く広く、女性の良い点だけを思う存分楽しむ。
その姿はまるで蜜を漁り次々と花の間を飛び回る蝶のようだ。
そんな綾時にとって、順平は特別な存在だ。
話していると心が弾む。
ずっと一緒にいたくなる。
他の人と話していると心がひどく痛む。
自分だけを見てと叫び出したくなる。
どれも女の子とつきあっているときにはなかった反応だ。
「わかってるのかなあ?」
綾時女性以外であそこまで親しくしているのは、順平だけだということに。
「わかってないだろうな」
そんなところも好きだけど、と苦笑する。
「なに独り言言ってんの?」
帽子がトレードーマークの想い人が話しかけてきた。
「なんでもないよ」
二人並んで馬鹿話をしながら道を歩いていく。
何気なく過ごす時間が、何よりもかけがえのないものだったなんて、気付かなかったあのころのお話。
END
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