「壁をぶち壊す日を夢見る」*未完成の関係の続き(真田視点)
「たくっ・・・いい加減気付けよな・・・・」
駅への道を歩きながら一人愚痴る。
アイツは俺の「好きだ」という言葉を信じない。いや、信じようとしないというべきか?
他の言葉は素直に受け取るのに肝心の言葉は受け入れない。
「オレもです」と言いながらその目は自分への言葉ではないと物語っている。
アイツとこういう関係になった最初のきっかけを思い出す。
本命はいないのかという惚れた奴に言われるにはあんまりな言葉。
その言葉に自棄になって俺は本命は男だと答えた。
他の女は代用品だと言い切れば、目を見開いた。
順平が思っているであろう「真田さん」からはかけ離れた言葉。
俺は順平に軽蔑してほしかったのかもしれない。
そうすれば少しは諦めがつくから。
ところが、順平の返事は全く予想していない反応だった。
「それじゃ、オレとしません?」
今となってはあの言葉は冗談だったのか本気だったのか分からない。
ただ俺は順平が言葉を翻す前に了承の意を伝えたから。
順平の躰だけでも欲しかったから。
そして冷静になってやはり嫌だと言わないように、その日のうちにに怯えて震える順平を抱いた。
本人は平気そうな顔の演技をしていたがな。無意識に震える手や青ざめた顔はどうしようもなかった。
だがそれを指摘せず、ただ丁寧に抱いた。
俺がいなければ駄目なほど淫らな躰にするつもりで、できるだけ快感を感じるように抱いた。
そうすればこの関係が嫌になっても順平は俺から離れられない。
順平は案外感度が良く俺の愛撫にあっさりと陥落してしまったが。
順平が嫌にならないよう通うのは多すぎない月に四、五回程度にしながら少しづつ一緒にいる時間を増やしていった。
そしてある日気が付いた。
情事の後帰ろうとした俺を珍しく起きていた順平が寂しそうに見送っていた。
その瞳が、まるで行かないで欲しいとでも言うように揺れていた。
それを見てふと思ったんだ。
もしかしてコイツも俺のことが好きなのか?
自分の思いつきが信じられなかったが、とりあえず暫く様子を観察することにした。
そうするといろいろなことに気が付いてくる。
近づけるだけで真っ赤になる顔だったり。
触れるとピクリと震える躰。
たまに見せるはにかむように笑うその表情。
言いたいことがあるのに飲み込んだような瞳。
しがみつく手の強さ。
などその他色々。
それに良く考えてみれば順平の性格からして興味だけで共に戦った仲間とは言えただの仲の良い先輩に身を任すか?
アイツはそこまで自堕落でも擦れてもない。
ならば何故?
初めて抱いた夜を思い出す。
震える躰。
青ざめた顔。
平気だと嘯く唇。
どんなに丁寧に抱いても生まれる痛みに必死で耐えていた。
血が上がれるほど唇を噛み締め悲鳴を押し殺すその姿。
シーツを掴んでいた手を背中に持っていけば、思いもよらない強さで縋りついてきた。
「それじゃ、オレとしません?」
あの後すぐに隠された順平の手は震えてなかったか?
それの意味するところは結局一つしかなかった。
「好きだ」
この言葉を俺は順平に何回言っただろうか。
オレもですよと答えながら順平は俺の言った言葉を信じない。
信じたくない、もう傷つきたくないとその瞳は物語る。
だから順平は自分で自分に言い聞かせる。『これは自分に言われた言葉ではない』と。
それはきっと俺の本命はいると言った発言のせいなんだろう。
だからこれは自分の撒いた種だ。自分で刈り取ることにした。
一緒に住むのも信頼してもらうための作戦の一つだ。
それだけじゃないのも確かだが。二人でいるには順平の住むアパートは狭すぎたし、何より順平が声が漏れることを嫌い喘ぎ声を出そうとしなかった。
お互いが楽しまないと意味がないのに、そちらばかりに気をとられてしまうのは不本意だ。
だから美鶴に防音機能が完備し、かつ日当たりや防犯設備、交通機関が近くにある物件を格安で融通してもらった。
ちなみに代金は順平の隠し撮り写真。
美鶴は裏表の無い性格の順平を溺愛していたからな。それを見せたら速攻でオッケーを出した。
曰く『そんなもの桐上グループ傘下には幾らでもある』だそうだ。もっといい部屋はあるぞと言われたが流石にそれは断った。
ただし今までの経過を全部吐かされたが。
そしたら思いっきりグーで腹を殴られた。あれは本気で痛かった・・・・・。顔は分かりやすいから順平に見つかるといけないからと自粛したらしい。助かった。
とりあえず順平が拒否しないように行き成り部屋を借りたことを告げ、引っ越させる。
しかし俺が家賃や食費を払うと言ったら拒否されてしまった。
どうしようかと悩んでいたところ、丁度掃除を失敗してしまった。
あれは同棲とい状況に少し緊張してやってしまっただけなのだが。
しかしこれは使えると思い、家事は駄目な男を演じれば、案の定人の良い順平は俺の演技をあっさりと信じ俺を自活能力の無い人間だと思い込んだ。
本当は順平ほど得意とまではいかないが、一人で生活するには十分な程度には心得ているんだが。
良心が多少痛んだが順平の人の良さを利用させてもらい、光熱費は折半で俺が家賃や食費を払う代わりに家事全般は順平の仕事にということで落ち着いた。
順平の様子からすると俺の言葉を信じるまでにはまだそうとうな時間が掛かるだろう。
だがそれがどうした?
そんなことに躊躇していたら欲しいものは手に入らない。
だから俺は順平が信じるようになるまで好きだと言い続ける。もちろん言葉だけでなく行動でも示しているが。
順平が本当の意味で俺の「好きだ」という言葉に笑って「オレもです」と答える日。
その日が早く来れば良いと駅への道を歩きながら強く思った。
END
あとがき
オマケどころの長さじゃないじゃん・・・・
というわけで題もつけて更に続編ということにしました。
一応時系列的には後の話だし。下書きよりどんどん打ち込むうちにストーリー伸びちゃったよ。
特に会長のあたりの文。そんなの書くつもり全然なかったのに・・・・。想像したらかなりギャグかなこれ。
最初は続編(未完成の関係)書くとき鬼畜真田でいこうかなと思ってたんだけど、そっちだと途中で行き詰っちゃって。
どーしよっかなーってゴロゴロしてたらこの頑張る真田が浮かんできました。
でも順平苛めは楽しいので思いついた鬼畜真田の台詞はいつか再利用したいなと思います。
終わりが三つとも似てるのは思いつかなかったから(最低だ・・・・)毎回同じような終わりですみません。
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