[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。



真田だって、耐えていたのだ。
そりゃあもう、涙ぐましいまでの努力で。


初めて順平に出逢ったときのことは、今でも鮮明に思い出せる。
はじめて影時間に落ちて泣いていたところを発見した真田が助けたのだ。
もし真田が通りかからなかったらシャドウに喰われていたかもしれないと思うとぞっとする。
同じ学校に通っているのだから、学年は違っても廊下ですれ違ってはいたのだろうが順平を順平として認識したのは、あのコンビニが初めてだった。
わんわん泣きながら、離すまいとでもいうようにしっかりしがみついてきた順平と守れなかった妹の姿が重なって、自分が守らねば!という庇護欲がめきめきと湧き上がってきたのだ。
大丈夫だと告げると、安心して照れた様子ではにかみながら笑ってくれた姿に、なぜだか心が温かくなってはいたけれど。

最初は、たしかにそれだけだったのだ。

順平はどれだけふざけていたって、頼りなくみせてたって。
髭を生やしていて、背もそれなりにあるような、ちゃんと戦う力を持った、後輩であり仲間で。
だけどやっぱり真田は、初めて遭遇した日のたよりなくて、自分がいないと死んでしまうんじゃないかと不安になった弱弱しい姿の認識を捨て切れなかった。

それがいつのころからだろうか。
あの細い腰に腕を廻してみたいだとか。
疲労した姿がやけに艶っぽいだとか。
タンクトップから覗く鎖骨に齧り付いてみたいだとか。
なんというか、「普通」ならば女子に抱くらしい認識を(真田にはそういうことに興味はなかったが、ある程度の知識くらいあるのだ)順平を見て抱くようになってきたのだ。
1度目は気の迷いで済んだ。
2度目は最近疲れていたのかで無理矢理済ませた。
3度目となると自分を納得させる言い訳が苦しくなってきていたのを自覚していたが、それでも必死に現実から目を逸らせてきたのだ。

それなのに。
ある日夢に出てきた順平は、なんと生まれたままの一糸纏わぬ姿でしどけなくベッドに横たわっていて、自分は彼にのしかかりながら「愛してる」と囁いていたのだ!
そして目が覚めてみれば当たり前のことに順平はいなくて、しかもしっかり反応していた息子さんのせいでトイレに駆け込む破目になったわけだ。
決定的だった。
そして自覚してしまえば、あとは落ちていくだけだった。
最初は順平が近づくたびに心臓が跳るわ、体温が上昇するわ、今までどんな風に接してきたのか完全に混乱してわからなくなったりするわで大変だったがなんとか乗り切った。
このときほど自分の仏頂面を感謝したことはなかった。
しかし真田がどぎまぎしているのを知りもしないで、順平は警戒なんて一切せずに(いやまあオトコドウシなんだから当たり前なんだけど)近づいてくるのだ。
なんというか、うん、拷問に近かった。
それでも耐えていたのだ。
だって、同性から「そういう」感情を向けられることが、どれだけ嫌悪感をもたらすか真田はつくづく知っていたから。
真田はご存知の通り、中身はともかく見た目はとても良い部類に入る。
特にちっさいころは女の子みたいと近所でも評判の美少年で、その手の人たちもごろごろ寄って来てたのだ。
変質者に狙われたことだって、たびたびあった。
大事にならなかったのは周りの大人や、荒垣が守ってきてくれたからだ。

今でも真田はときたま思い出す。
にこにこ笑いながら、でも真田にだってわかる不自然さを持ったまま近づく大人。
汗ばんでいる掌に腕を掴まれて、躰を触られそうになったところで、親友に助けられたあの瞬間。

そのせいだろうか、真田はその手の感情が、喩え相手が女性であったとしても抱く気持ちにはなれなかった。
ボクシングがあって、SEESで力をつけれる、そんな今の状態のままで十分だ。いや、シンジが帰ってきてくれるともっといい、くらいの気持ちだったのだ。
ある意味単調で、平和な毎日を過ごしていたわけだ。
それが順平によって破られた。

好きだ、キスしたい、脱がしたい、舐めたい、啼かせたい、抱きたい、挿れたい。
男の欲望なんてそんなものだ。
好きだからこそ躰の欲求にダイレクトに反映してくる。
そんな感情を順平にぶつけたとして、嫌悪感を持たないほうがおかしい。
真田だって順平以外では御免だし、想像したくない。
伝えたい、伝えたくない。
伝えてこの関係が崩れるのは嫌だ。でも傍にいても、伝えられなくて苦しい。
今のままなら先輩と後輩という、ぬるま湯のような関係でいられる。順平の想いが欲しい。

袋小路に嵌まった思考と爆発しそうになる感情を、必死に押さえつけてきたのだ。
なのに順平はそんな真田の苦悩も知らずのこのこと近寄って来るし、無防備に後輩として慕ってきてもう内心ボロボロだったのだ。

そんな時だ。
タルタロスで「ソレ」を拾ったのは。