ゆらゆら揺られる。
暖かな人の体温が自分を包んでくれている。
(あったけー)
「う・・・・・」
目を開けばぼんやりとした白いものが見えた。目が慣れるに従ってどんどん輪郭がはっきりしてくる。
「目が覚めたか」
端正な顔つきと特徴的な白髪。どこかで見たことがある気がする。たしか・・・・
「さ・・・・なだ・・・せん、ぱい?」
ああそうだ、無敗のボクサーとかで、女子がよくキャーキャー言って騒いでいたのを見かけたことがあった人だ。
「俺を知っているのか?」
驚きと嬉しさが混じったような顔をする。
「そりゃまあ・・・・有名人っすから、名前くらいは」
「・・・・そうか」
とたんに渋い顔になった。どうしたんだろう?
「あ、オレの名前は・・・・」
「伊織順平」
「知ってたんっすか」
「まあな・・・・・・・・・俺は」
「え?」
「俺は、お前を知っているのにな」
「はあ・・・・」
意味がわからずに混乱する。・・・・と、そこで目に映る景色に疑問を抱く。
膝と背中の腕。やけに密着している躰と近すぎる顔。動いてく景色。真田の顔ごしに見える明るすぎる月と深い緑色をした空。
なんで自分は真田の首に手を回しているのか?とか
「・・・・センパイ」
「なんだ?」
「なんで、センパイにオレは抱えられてるんスか?」
「どんな悪影響があるかわからんからな。安全な場所へ行くのにお前が起きるのを待つ余裕がなかった」
だからって。
「なにもお姫様ダッコで運ぶことないでしょがー!?」
暴れて落ちてもたまらないので言葉で必死になって訴える。
「頼むからもう降ろしてくださいー!!」
「仕方ないな・・・・・」
真田は立ち止まると膝裏を支えている方の腕を下ろしていく。
「立てるか?」
「トーゼン!!・・・・・アレ?」
足に力が入らず、そのままガクンと体勢が勝手に崩れ落ちていく。
「どうした!?」
間一髪、真田に助けられた。
「躰が・・・・・動かねえ・・・・」
首から下が麻痺したように動かない。まだ、さっきの後遺症が残っているのか?
「言わんこっちゃない」
ゆっくりと順平の躰を支えた手を地面に下げ順平を座らせ、自身も跪く。
「シャドウは人の精神を喰らう。お前はその餌食になりかかったわけしな。それくらい当たり前なんだ」
「シャドウ?」
「お前を襲ったものの名前だ。・・・・・・・もっとも、俺たちがそう勝手に呼んでいるだけだが」
おそう?おれを・・・・・・・・?
真田の言葉が一瞬理解できなかった。
フラッシュバックする記憶。
『・・・はぁ・・・っ、・・・・あっ』
わけのわからないものに犯されて悦んでいた自分。
『いやだっ・・・・あっぁ・・・・』
嫌がっているのはずなのに何度自分は達した?
『・・・・ぁ・・・あ、や、・・・・んっ・・・』
もういやだ。
だれかたすけて。
こんなのおれじゃない。
もしかして。
助けられたこっちが夢で、本当はまだアイツに捕まったままなんじゃ。
そう思った途端、ひゅっと息が漏れた。
いきが・・・・・できない。
様子のおかしくなった順平に真田が気付いた。
「おいっ!?大丈夫か!!!!」
なにかいってるけど、くるしくてきこえない。
いきがうまくできない。
いきをはいて、はいて、はいて、はいて・・・・・
くるしいのに、すえないんだよ。
「チッ」
順平が過呼吸の状態になってしまったことに気が付いた真田は舌打ちをする。
どうして自分は思い出させた!伊織順平は普通の男子高校生だ。それが、あんなものに犯されて相当なショックを受けたはず。これくらい予想できたことだった。
不用意な自分の一言が順平の傷を抉り出してしまった。しかし今は悠長に自分を責めているべきではない。
必要なのは、コイツに呼吸をさせてやること。
そう思い真田は順平の顎を掴むと、一度大きく息を吸い込んだ。
「ふっ、・・ん・・うんっ!?」
息苦しさに悶えていた順平は口を塞がれる。
息を吐くこともできなくなって余計に暴れ出した。
くるしい。やめろ。いきをさせてくれ。
それでも戒めは解かれない。
その時、口内にゆっくりと酸素が入ってきた。
貪るように吸い込んだ空気。
送られた空気を吸って、息を吸われて吐いた。
(きす、されてる?・・・・・まあいっか)
真田のくれる酸素がたまらなく気持ちよかった。
順平がきちんと呼吸しだしていることに真田が気が付くと、唇を開放された。
「・・・んっ・・・」
なんだろう、何か言ってる。
さっきまで意味をなさなかった音が脳の中で翻訳されていく。
「俺の声が聞こえるか?順平。ゆっくり息を吸い込むんだ・・・・そう・・・・吐いて」
真田の言うとおりに呼吸を行えば、少しづつだが躰が楽になってきた。
「はっ・・・・あ・・・は・・・ぁ・・」
「もう大丈夫だから、落ち着いてくれ」
ぎゅっと抱きしめられる。
ああ大丈夫なんだ。このひとが助けてくれたから。このあったかさは夢なんかじゃない。
「思い出させてすまない・・・・・俺のせいだ」
暫らくして、順平が落ち着いたのを確認してから再びひょいっと抱き上げられる。身長はむしろ順平のほうが高いくらいなのに、真田はちっとも苦にしてない様子だ。
抱き上げられて真田がこの綺麗な見た目とは裏腹に筋肉質な躰をしていることに密着している部分からありありと分かった。
「しかし・・・・軽いなお前・・・ちゃんと食っているのか?」
真田はまじまじと順平を見つめた後、独り言のように呟いた。
(ひとが気にしてることをー!!)
密かに気にしていたことをずばりと言われてショックを受ける順平。
順平は身長こそそれなりにあるが、筋肉がつきにくい躰らしく細く華奢な体型をしていた。それに比べると真田の精悍なことといったら。
ふと、自分があのシャドウとかいう奴に脱がされた筈のズボンを履いていることに気が付く。
(これも先輩がやってくれたのか?ああもうオレ恥ずかしくて死にそう・・・・・つーか誰かオレに銃をチョーダイ。それでオレを撃ち殺すからさ)
「着いたぞ」
うだうだと考え込んでいるうちにいつの間にか目的地に到着したようだ。声を掛けられて正気に戻る。
目の前には一軒の建物。
真田はそこのドアを順平を抱えたまま器用に開けて入っていった。
あとがき
真田は順平に既に落ちているので、(学校で見かけて一目惚れでもしとけ)順平が自分を「有名人の真田先輩」としか知ってなかったことに腹を立ててました。んな自分勝手な(汗)
っていうか真田がすんごいジェントルー(たぶん)どうしよう・・・・(汗)といかその3で終わらないじゃーん。ここで終わらせた方が綺麗だった気もしてきたよおい・・・。
過呼吸な人にこんなんやっていいのかつっこみつつ、まあいっかで仕上げました。
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