光の射す部屋

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仕掛けたのは自分からだったはずなのに。 気が付けば簡単に荒垣に主導権を奪われて触れ合っただけで、そこから融けてしまいそうなそんな錯 覚と熱を帯びる自分の身体を順平が持余しているのを見て、荒垣は満足げに笑った。 「…キスだけでそんなに感じたのか…感じやすいんだな…」 狭いソファの上で重なり合うようにしているせいで下肢が触れ合ってしまっている為、既に自分自身が熱を 持ち変化し始めている事を隠すこともできないどころか簡単に知られてしまった事が恥ずかしくて順平が荒 垣から顔を背けた。 そんな順平を見て、荒垣が恥ずかしがる必要もないだろうと囁く。 「あっ…ぅ…」 荒垣の普段とは違うその甘い低音の声色に、順平の身体にゾクリとした快感が走る。 「…耳も弱いのか?」 荒垣が確かめるように順平の耳朶に舌を這わせる。 「…ひぁっ!……んんっ…や…ぁ…」 ピチャピチャとわざと水音を立てるようにして耳朶を舐め上げられると、順平がたまらないとばかりに甘 い声を上げる。 「……荒垣…さ…ん」 順平の甘い嬌声が、自分を呼ぶ。 それだけで、自分の中で渦巻いていた想いの全てが堰を切って溢れ出す。 自分に残された時間の全てをお前の為に使うから… 俺の全てで、お前を愛するから…お前を… 押さえが利かなくなりそうな自分に、荒垣が苦笑を漏らした。 今日はたまたま順平が他のものよりも一足早く戻ってきていたから他の面子がいないだけのラウンジ でこの先の行為に及ぶわけにもいかない。 既に身体から力が抜けきってしまっている順平の身体を荒垣は横抱きに抱き上げると足早に階段へと 向かう。 「…荒垣…さ?」 不安そうに自分を見上げる順平の姿に、少しばかりばつが悪そうな表情で荒垣が答える。 「……流石に、ここでするわけにも…いかねぇだろ…」 「…あ……そうっす…ね」 今まで自分たちが居たのがお互いの私室ではなく、寮生共用のラウンジだった事を思い出して、順平も 荒垣同様にばつの悪そうな顔をする。 「……俺の部屋で…いいな?」 「…」 「お前の部屋の方がいいのか?」 順平が答えないのをが否だという意思表示だと思った荒垣がそういって順平の顔を覗き込む。 「や、荒垣さんの部屋でいいです」 自分の部屋は散らかりっぱなしだし、なにしろ自分の部屋は両隣が使われているからもし誰かが帰っ てきたりしたらいろんな意味で非常に困るからと、順平がぼそぼそと続ける。 「…悪いな。本当はここじゃない場所の方がいいんだろうが…誰かさんが必死に煽ってくれたもんだか ら、俺も、そんなに抑えてられる自信がなくてな」 「な!?」 煽ったって、何のことだと順平が驚いた様子で荒垣の顔を見上げる。 「…甘い声で啼いて、俺を呼んで…煽っただろ?」 あんな風に可愛い姿を見せられて、平気でいられるほど俺は朴念仁じゃないんでな。 少しだけ意地悪くそういいながら、荒垣が順平を揺らさないように注意しつつ階段を上っていく。 「あ…煽っただ…なんて……そりゃ…あんな変に甘ったるい声を出したのは誰でもない俺だけど…」 「違うのか?」 必死にそんなことしていないという順平に向かって、荒垣が驚いたような顔して言う。 そんな荒垣を見て、順平が顔を紅潮させて大声を上げる。 「…荒垣さんが…そうなるようにしたんじゃないっすか!なんで俺だけが悪いんすか!?」 「そう怒るな。…可愛くて、もっと色々と苛めてみたくなるじゃねぇか」 「…!!」 想像もしていなかった荒垣の台詞に、順平が絶句する。 「…冗談だ」 なんと言って続けるべきなのかわからなくておろおろしている順平の姿をみて、荒垣がしれっとした様子で 言った。 「…あ…荒垣さんが言うと…冗談に聞こえないッスよ…」 ほっとしたように、大きく息をつく順平の姿を見ると、荒垣が楽しそうに笑う。 「悪かったな。でも、俺は大切な人を苛めて楽しむような歪んだ趣味はもってねぇよ」 そういって安心させるように、荒垣が順平の頬に軽く触れるだけのキスをする。 「…よかった〜。そういう趣味があるとかいわれたらどうしようかって…今、マジで焦ったっすよ」 荒垣のキスを嬉しそうに受けながら、順平が言う。 「…でも、俺…荒垣さんが相手だったら……大丈夫だとは思うけど…」 好きな人がしたいって言うなら…そう言う事も受け入れられないとまずいし…受け入れたいって思うもん でしょ? 恥ずかしそうにぼそぼそと呟くようなに順平が言うのを聞くと、荒垣が眉間に深い皺を寄せ、小さな溜息を 漏らした。 「…荒垣さん? 俺、何か変な事言ったっすか?」 「…順平…これ以上本当に俺を煽るような真似するんじゃねぇ」 「え…あの…?」 「……」 「…荒垣さん?」 自分の何が荒垣のいう「煽るような真似」になるのかがわからずに順平が首をひねっていると、トサリと いう音と共に、柔らかな感触のするところに身体を下ろされる。 「…あ」 やっと自分の状況に気が付いた順平が辺りを見渡すと、そこは既に自分の部屋よりも若干広めな荒垣 の部屋の中だった。 「……それとも、わかっててやってるのか?」 だったら、お望みどおり…加減なんざ一切無しでするぜ? ギシリと小さな音を立てて荒垣は順平の上に伸し掛かると、順平の唇に自分の唇を重ねる。 僅かに開いていた唇の合わせ目から忍び込んだ荒垣の舌が順平の舌を探すようにして口腔内を彷徨 う。それに答えるように、順平の舌がたどたどしく荒垣の舌に絡みつく。 熱い舌同士が絡み合うと、順平は腰の辺りに疼くような感覚が沸き起こり、それだけで身体が熱く なってしまう。 順平の意識がキスに釘付けになっている隙に、荒垣が順平のシャツのボタンに手を掛け、その滑らか な肌をあらわにしていく。 「…んぅ…」 離れた荒垣と順平の唇の間を名残惜しげに唾液の銀糸が繋ぐ。 それをピチャリと水音を立てて舐め取ると、荒垣が順平の首筋へと舌を伸ばす。 ゆるゆると首筋から鎖骨、そのまま胸元へと荒垣の舌が動くたびに、順平の身体が細かく震える。 「…あっ…」 濡れた舌に舐め上げられて、堪えきれずに順平が声を上げる所を見つけると、荒垣はそこに印をつけ るかのように、強く吸い上げて順平の滑らかな肌の上に赤い花弁を散らせる。 所有の意味を持つ赤い花が肌の上に咲くたびに生じるチリッとした感覚と共に順平の身体が甘く蕩けて いく。 「感じる場所に印を付けてって思ったが…これじゃあ、全身印だらけになっちまいそうだな」 「…あ…痕なんて…つけないでくださいよ…」 「いいだろ?」 そんなに強くつけていないから、これぐらいならほんの数日で消えてなくなる程度のものだし、第一タルタロ スでの戦闘中に回復魔法を掛ければあっという間に消え去ってしまうだろう。 そう、いいながら、荒垣がまた順平の肌の上に新たな花を散らす。 「……今日だけ…ですからね…」 恥ずかしいのを堪えながら、そう順平が言うのを聞くと、荒垣が柔らかな笑みを浮かべる。 「そんな顔したって…今日だけなんすよ」 それでも、自分の答え一つで荒垣がこんなにも嬉しそうにするのなら、あからさまに情事の痕だとわかる痣 の一つや二つぐらい…付けられても構わないかも知れない… 「……学校が休みの前の日とかなら……タマにだったら…いいけど…」 「優しいな、順平は…」 そう言って、荒垣がまた順平の肌を強く吸って新しい痕を作る。 「その代わり…守沖とか桐条先輩に何か言われたら…荒垣さんが言い訳してくださいよ」 俺は、そんな恥ずかしいことはヤですから。 「ああ。それぐらいならかまわねぇよ」 ちょうどいい牽制にもなるだろうしな。 そういって荒垣が笑うのだった。
 

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主人公の名前は守沖冬輝となっております。