光の射す部屋

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それまで自分の中を犯していた指などとは比べ物にならない大きなものが突き立てられ、奥へと少し ずつ進んでいく。 中から全て焼き尽くされてしまいそうな錯覚を覚える程、熱い楔。 メリメリと音を立てて、身体を引き裂かれているのではないかと錯覚さえしてしまうほどの苦痛。 「…あ…っ…あぁ…」 膨れ上がる圧迫感と引き裂かれるような痛みで苦しくて仕方ない筈なのに、順平の心は酷く満ちてい た。 荒垣が、自分の中にいる。 それだけで、幸せな気持ちに慣れる。 苦しくても、痛くても…構わない。 この人と…一つになっているのだから。 信じられない程奥までそれを受け入れながら、順平が荒垣の身体にしがみつく。 「…順平」 いつも自分を見てくれる優しい目とは違う…危うい熱を孕んだ目が、じっと自分を見ている。 ゾクリと、快感が背筋に走る。 この人がこんな風にしたのは、自分。 施される愛撫に翻弄され、よがる自分の痴態を見て欲情してくれている。 それだけで、感じている筈の痛みと苦しさが霧散し、まったく違うものが沸き起こる。 酷く甘いーーーー快感。 繋がった場所から蕩けていきそうな、灼熱の快楽。 「…ん…はぁ……あら…がき…さ」 苦しさから自分の意思とは無関係に逃げを打ちそうになる身体をどうにかしてくて、順平が荒垣の名を 呼ぶ。 「…もう暫く…じっとしてろ」 根元まで突き入れた自分自身に順平が馴染むまで、ここままでいるつもりの荒垣に、順平がふるふると 首を振ってみせる。 「…順平?」 「…動い…てよ……オレなら…大丈夫っすから…」 同じ男だからこそ判る。 荒垣がこうして堪えて居るのがどれ程辛いのか。 そう言って、順平が荒垣にしがみつく腕にきゅっと力を込める。 「荒垣さんが…どれだけ……俺が欲しいのか…教えて」 そうしてくれなければ頭の悪い自分には判らないからと、順平が呟く。 「……ったく。どこでそういう台詞を覚えてくるんだ…テメェは…」 ずっと、欲しくて仕方なかった順平相手にありえないとさえ思っていたこの状況で、そんな台詞を言われ て…そのままで居ることなど荒垣に出来るわけも無い。 「…出来る限り、優しくしてやりてぇってのに…煽りやがって」 傷つけたくない。 突き上げてくる狂おしいほどの愛しさを伝えたい。 そう思っていたのに。 「…俺…結構頑丈だから…」 荒垣さんが本当にしたいように…して。 まるで、自分の心の奥底に潜む想いを見透かされたような順平の言葉。 きっと、無意識のうちに嗅ぎ取られてしまったのだろう。 どんなに自分が順平が欲しくて仕方がなかったのかを… 荒垣新次郎という存在をその身体に消える事が無いほど刻み込みたかったのかを。 このまま順平を思う様蹂躙してしまいたいという耐え難い誘惑に駆られているのを。 肉欲と征服欲とが全身を駆け巡り、優しくするどころか、暴走するのを必死で押しとどめているだけだと 言う事を。 「…ね…?」 「………済まねぇ」 そう呟くように言って荒垣は順平の腰を掴むと、動き始めた。 「…ひっ…んん…ぁ…」 ゆっくりと、だが、どこまでも深く。 先端近くまで引きけば名残惜しげに絡み付き、根元深くまで穿てば、更に奥まで咥え込もうというかのよ うに蠢く順平に、知らず、荒垣の動きが早さを増し突き上げる回数も増えていく。 「あ…くぅっ」 「…じゅん…ぺ…」 自分の身体の中を荒垣のものが更に大きさを増しながら暴れまわっている。 でも、それは自分の身体で荒垣が快感を得ている何よりの証拠。 ーーー荒垣さん…気持ちいいんだ。 熱に浮かされたような荒垣に名を呼ばれると、信じられないような歓喜が全身に沸き起こる。 「…が…き……さ…」 それに答えたいのに、息が上がって答える事が出来ない順平が声を紡ぐ代わりに荒垣の身体にしがみ ついた。 「…っああぁぅ…!!」 繋がった箇所の角度が変わり、それまでとは違う箇所を擦られた順平の身体が跳ねる。 さっき、荒垣が探り出した…順平の感じる箇所。 そこを抉られたのだ。 「…ここ…だったな…」 囁くようにそう言って荒垣がそこを集中的に責め始めると、順平の身体がびくびく振るえる。 「や…っ…だ…め…」 強すぎる刺激に、順平の意識が焼ける。 「嫌じゃないだろ…こんなに…して」 また立ち上がっている順平自身に、荒垣が指を絡める。 「ひっっ!!」 ただでさえ中を抉られる度に感じる強すぎる快感におかしくなりそうなのに。 「だ…駄目……ま…また……あ…っ」 「言ったろ? 幾らでもイっていいってよ…」 そういって、荒垣が順平に腰を打ち付けるのと同じリズムで順平自身を扱くと、あっという間に順平は精 を放つ。 それと同時に、強く締め上げられた荒垣も順平の中に白濁した精を放つのだった。 ゆらゆらと、意識が揺れている。 自分以外の体温に包まれて、まどろみを漂うのが酷く気持ちがいい。 誰だろう? こんな風に、優しい腕に抱かれたのは…小さな子供の頃以来だった気がする。 そっと頬を撫でてくれるその掌が気持ちよくて、順平が微笑む。 「…順平」 気遣わしげなその声に、ふと、意識が浮上する。 急に焦点を結ぶ視界いっぱいに広がるのは、とても穏やかで優しい表情をした男。 「…あ……荒垣さ…ん?」 「…気がついたか」 心配げなその言葉に、徐々に順平の記憶が蘇り、一気に頭に血が上る。 「……俺…気ぃ失って…たんすか?」 汗と己の放ったものに塗れていた筈の身体は清められ、荒垣のものらしいシャツを着ている。 きっと、気を失っている間に、みんな荒垣がしてくれたのだろう。 「…もう暫くすれば、夜も明ける」 「……って、結構長いこと気を失ってたんすね…オレ」 「…そうだな」 そう言って荒垣が、順平の頬に優しいキスをする。 そのくすぐったさに身を竦めた順平の身体に、鈍痛が走り、一瞬順平の顔が歪む。 「…ってぇ…」 「結局、無理させちまったな…」 済まねぇ。 ばつの悪そうな表情をする荒垣を見て、くすりと順平が笑う。 「…オレがして欲しいって強請ったんだから…荒垣さんがそんな顔する事なんてないっすよ」 「………」 「……なんか…すっげ…幸せっす」 そういって、順平が荒垣に擦り寄ると、順平の額に荒垣が唇を寄せる。 「もう少し眠っておけ」 どうせ休みなのだから、昼近くまで眠っていても誰も咎めたりしないだろう。 そう、荒垣が言う。 「…ん…でも…寝ちゃったら…みんな夢になっちゃいそうで…」 「気持ちは…判るがな」 そんな気がしたせいで結局自分も眠れなかったのだと、荒垣が苦笑する。 「…でも、夢じゃねぇ」 「…そうっすね。…夢なんかじゃ…ないんだ」 そういって幸せそうに笑う順平を見つめる荒垣の顔に、言い知れない苦い色が滲む。 何時の日か…すべてが夢だったら良かったのにと…順平が思う日が来るのかもしれない。 それでも、もう…この温もりと幸せを自分は手放す事が出来ない。 「……荒垣さん?」 「ん?」 「どうしたんっすか?」 なんか…酷く悲しそうな顔してると、順平が言う。 「…もう、離してやれなくなっちまったなと…思ってよ」 「離したりしないでくださいよ」 ずっと、傍に居させて。 そう、順平が言う。 「…ああ…そうだな」 差し込み始めた朝日を見つめながら、荒垣は腕の中の順平を抱きしめる。 「…荒垣さん?」 不思議そうに、順平が荒垣の顔を見上げる。 「…俺も、少し眠る」 「……ん…じゃあ…オレも…」 例え、順平を一人残していく「その時」が来たとしても、きっと自分は順平を離してやることは出来ないだ ろう。 ーーー否。出来ないのではなく、するつもりも無いのだ。 そんな身勝手で我儘な自分を…順平が、いつか、忘れる事が出来るようにと…荒垣は願わずには居ら れないのだった。
 

fin


「荒伊 エロ 甘甘(だったかな?)」という私の濃い願いを叶えてくださってありがとうございました。
連載中次はどうなるかなー、とわくわくしながら拝読させていただきました。
これからも素敵なssを楽しみにしてます 明