「好きな奴はいる」
彼女が出来てはすぐに別れてまた付き合うを繰り返す真田さん(ほら、あの容姿だし。告白されてオッケー→私とボクシングとどっちが大切なの!?で別れているらしい)に 「本命はいないのか」って聞いた答えがそれだった。まだこの人は誰にも捕まっていない。彼女と別れたばかりの真田さんには悪いけど、オレは嬉しかった。
オレは真田さんがそういう意味で「好き」だったから。けどオレ男だし。せめて傍にいられたらなあって思っていたのに。
「告白する気はないんっすか?応援しますよオレ」
絶望で真っ暗になりながら聞いてみる。ホントは応援なんかしたくないくせに。でもするんだろうな。オレって自虐癖があったんだなー。真田さんは自嘲しながら言う。
「・・・・ソイツは男だが、それでもか?」
「・・・え」
「だから告白する気はないさ。女はその代わりだ」
オレは男だから、諦めたのに。
なんでこの人が好きになった男の人がオレじゃなかったんだろ。
どうして。
「・・・・どんな人ですか?真田さんが好きになった人って」
「・・・・・・真っ直ぐで、笑顔が似合う」
すごく愛しそうに、哀しそうにそれだけ真田さんは言った。じゃあこんな風に後輩の振りしている臆病者のオレとは全然違う人なんだな。
「ずっとそのままのつもりっすか」
「ああ」
ずるい。なんでオレがこんなに欲しい心をその人は簡単に手に入れているんだ。
真田さんが付き合う女の人はみんな綺麗な人たちばっかで。男なんかに思われても気持ち悪いだけだろうって思っていたのに。

だったらオレでもいいじゃないか。

「それじゃ、オレとしません?」

するりと言葉が出てきた。真田さんは目を見開いて信じられないモノを見る目でオレを見ている。
後にはもう引けない。

「男同士ってキョーミがあったんっすよ」

「別に処女とかないし」

「最近欲求不満で」

すらすらと笑いながら言葉が出てくる。こんなの何でもないって顔して、提案をした。

「期間は真田さんがその人とくっつくか、オレが彼女作るまで」

「どーすか?」

震える手はテーブルの下に隠したから大丈夫。沈黙がすごく重い。冗談ですよって言おうとしたその瞬間

「・・・・・・じゃあ、そうさせてもらうぞ」

え。

「じゃ、交渉成立っすね」

初めてのキスはなんだか苦かった。
それから真田さんと・・・・・・スルようになって。真田さんはオレを一ヶ月に五、六回くらいの回数で丁寧に抱いた。
最初は躰だけでもよかったんだ。代わりでも。
でも半年くらいその関係が続いた後それじゃ嫌になった。
どんなに愛しそうに抱いてくれてもそれはオレが代用品だからだし、オレを通してその人を想うんだなって想像したら耐えられなくなった。
だから終わらせようと思って初めて自分から真田さんの家に行った。「話がある」って電話で言って。


「止めたい?」
こくりと肯く。
「どうしてだ」
「・・・・・すきなひとができました」
ホントは好きな人が真田さんなんだから止める意味ないんだけどそういうことにすれば納得してくれるかなと思った。
止めたくないけど、ないものねだりするのにはもう疲れたんだ。
「ソイツにはまだ告白してないのか」
「・・・・・告白するつもりは、ないです」
「何故」
「真田さんと同じ理由っす。好きな人、男ですから」
これは本当。

「・・・・・・・・・わかった」
良かった。ほっとして帰ろうと玄関の方を向く。
「だが最後にもう一回抱かせろ」
「え・・・・・・」

オレがいいとも嫌とも言わないうちに腕を掴まれてベッドまで引っ張られて押し倒された。
それから今までの丁寧な抱き方が嘘みたいに気を失うまで乱暴に抱かれた。
最後だから、気遣いなんてなくて当たり前だよな。
今までのが変だったんだ。だけど少し哀しかった。



ベッドの上で目が覚めた。躰を起こすと真田さんにホラ、と言って紙を一枚渡された。
なんだろう?
裏返すとそれはポラロイドカメラで撮られたオレの気絶している姿。それはさっきまでのオレの姿で、明らかに情事の後と分かるものだった。
写真を持つ手がぶるぶると震える。
「良く撮れてるだろう?たくさんあるんだ。ソレはやるよ」
「なん・・・・・・で」
「なんでだと?ふざけるな」
真田さんがベッドの上に膝をついた。
「だいたい俺無しじゃいられんような淫乱な躰の癖して」
ギシリとベッドが軋む。
「どうする気だったんだ?お前の『好きな人』に慰めてもらう気だったのか?」
顎をつかまれ真田さんを真正面から見させられる。
「生憎だが、俺は止める気なんかさらさらない」
真田さんは今まで見たことがないほど冷たい瞳で笑みを浮かべていた。
「忘れるな。順平、お前は俺の物だ」
目の前が真っ暗になった気がした。
「俺が来いと連絡したら必ず来い。でないと・・・・どうなるかわかってるだろう?」
真田さんの瞳に青ざめた顔のオレが映ってる。何も言えないでいるオレを見て真田さんは満足げに肯いた。
「じゃあ、交渉成立だな」
あの時オレが言った言葉と同じ言葉を呟いて真田さんはオレにキスをした。
キスの味はわからなかった。




あとがき
お気づきと思いますが実はこの話「壊れかけの嘘」と過去は同じ設定なんですね。真田が気付く前に順平が逃げようとしたせいで、分岐したんです。しっかし真田が最低男・・・・。