ありがとうございました、と言って診察室を出て廊下を歩き出す。
なんだよソレ。「死に直面」っていまさらじゃん。オレはずっとそんなのに遭ってきたのに。高2の時に。
一年。その短いようで長い時間をオレはどう取り戻せばいいんだ?
全然今までのことがわかんねえから大学だって休学しなきゃいけねえだろうし、治療費とかも払わなきゃ。 てかオレの借りてたアパート火事で焼けたって。
多分水浸しだろうから使えねえ。躰自体には腕に軽い火傷だけだったから、もう今日退院なのに。泊まるとこどうしよう。それに明日からどうしよう。
呆然となる。けどどうにかしねえと。イザとなったらダンボール生活か?まあダチの家に泊めてもらおうかな。説明したら絶対からかわれそうだけど。「オレお前に金貸してたんだけど〜」とか言って。
そう思って一緒に歩いてた真田さんの方を向く。
「あ、すんません助けてもらった上にこんなのに付き合ってもらって」
「いや」
聞けば、たまたまオレのアパートに行こうとして火事になってるのを見た真田さんがアパートに転がってたオレを炎の中助けてくれたらしい。
冬で火事があちこちで起きてて消防車が来るのが遅かったから、真田さんが助けなければ焼け死んでたかも、と看護婦さんがこそっと教えてくれた。
いい先輩ね、と言いながら。
ホントいい先輩だよ。こんなオレにはもったいないぐらいの。
そうこうしてるうちにガラス張りの病院の玄関につく。
「じゃ、ありがとうございました」
礼をするとテキトーな方向に歩き出した。
「順平」
「なんっすか?」
「これからどうするつもりだ」
「うーん。ダチにでも連絡とって迎えに来てもらってついで世話になっちまおうとか考えてますけど」
「携帯はおそらく燃えたぞ」
「じゃそこらへんの電話ボックスで・・・・」
「お前金持ってないんだろう?どうやって連絡するんだ」
あ。
「・・・・・・・・・歩きで直接、とか?」
「怪我人が馬鹿なこと言うな!ったく・・・・俺の家に来い」
「うええ!?そんなことまで世話になるのは悪いっすよ!彼女とか呼べないんっすよ!?」
「今のところ彼女はいない。作るつもりも無い。大体当ても無いくせにやかましい。大人しくオレの世話になれ。・・・・・それともなんだ。断らなきゃならん理由でもあるのか」
うっと詰まる。
オオアリですと言いたい。
そりゃ真田さんは後輩を純粋に心配して言ってくれたんだろうけど。
このひとの世話になんかなれない。
だってオレは真田さんが好きなんだ。
自分が恋愛感情で真田さんを好きだと気が付いたのは二、三ヶ月前。
真田さん、と声を掛けようとして綺麗な女の人とキスをする真田さんを見かけたときだった。
その時思わず来た道を走って戻りながら羨ましいって思ったんだ。
女の人とキスをする真田さんをではなく、キスをしている女の人を。
その時に気が付いた。オレは真田さんが好きなことに。
今までも真田さんの女の人の噂は聞いてたときもなんだかちくちく心が痛んでた。けど気のせいだって自分に言い聞かせてたんだ。それ以上考えちゃいけないって。
なのに気が付いてしまった。
絶望した。気付かなければずっと後輩のままでいられたのに。
ばれたときの真田さんの顔を思うと哀しくなる。
だけど離れる勇気もなくて隠そうと頑張ることにした。
なのに世話になれって。それって一緒に住むってことじゃん。
絶対気持ち隠しとけないって!!
でもそんなこと言えるはずもなく。
「オジャマシマス・・・・・」
結局肯いてしまった。こうなったら必死で隠すしかない。頑張れオレ・・・・・・・・。
コンクリートが晒しっぱなしで生活する上で必要最低限の物がしか置いてない殺風景な部屋。けどある意味真田さんらしい部屋だ。
真田さんがウチに来ることはあってもオレは行かなかったからはじめて見る。きょろきょろ周りを見ていると真田さんがヒーターを付けてジャンパーを脱いだ。
「この部屋にも来ていたんだが覚えているか?」
勇気あんな未来のオレ。
「いや、ゼンゼン」
「そうか・・・・・・」
腕を組み何か考えてる真田さん。
「あの〜」
「なんだ」
「ちなみにオレ、彼女とかいました?」
この一年の間に吹っ切れてたらいいな。けどこの人やチドリ以上の人を見つけるのは難しいよなあ。
「知らん。俺の見る限り、彼女はいなかった」
うわあやっぱり。
「だが彼氏なら知っている」
「・・・・・・・・は?」
「無事でよかった・・・・」
真田さんがオレを抱きしめる。
うっそー!!!!
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