順平は自室のベッドに寝転がり天井を見つめる。
(ヒマだ・・・・・)
タルタロスのない日の夜は真田の部屋に突撃したりもしていたが、流石にセンターが差し迫ってきている今、真田のところに行く気はない。
ただでさえ真田は受験勉強とタルタロスの多忙な毎日を送っているのだ。
真田本人がいつでも来いと言ってくれてたとしても、けじめは大事だと思う。
負担になりたくない。
これは本音であり建前。
嫌われたくない。
こちらがたぶん本音。
けれど理性と感情は別物だ。
そんな都合を全て無視して真田と共にいたい。
どれも本音。
本当に人間というのは複雑なものである。
暇つぶしになるかと斜め読みしていた歴史の教科書を床に落とす。
以前よりは格段にやる気になったとは言え、やはり勉強は苦手だ。
そのままベッドにゴロゴロしながら真田のことを思っていると、ふとここで行われた別のことを思い出した。
自分の名を囁く情事の時の濡れた声。愛されていると素直に信じれた。
体内を貫く灼熱の禊に耐えかね、溺れた人間が何かに捕まるときのように真田の背中を寄る辺に縋りついた。
(やっべ・・・思い出してきた・・・・)
首を振って記憶を散らそうとするが一度始まったフラッシュバックは止まるどころか勢いを増していく。
お互いが溶け合うと思うほど近くなった距離で、真田のことしか考えられなくなるまで揺さぶられ、どろどろになるまで抱き合った。
黒い手袋を外した手の指がどこをどう辿って順平の中から快楽を紡ぎ出していったかなんて、わかりすぎるくらいわかってる。
思い出してくる情事の様子に反応してかいつの間にかジーンズの前が窮屈になっていた。
これはもう放っておいて収まるのを待つより処理した方が早そうだと判断した順平は溜息を一つ吐いた。
ベッドの上に腰を下ろした状態でジーンズの前をくつろげる。
チャックを下ろす音がやけに室内に響いた。
自慰をするのは久しぶりだ。
真田とコトに及ぶ方が遥かに気持ちよかったし、二人でする愉しさを知ってしまうと独りでする気にはなれなかったのだ。
まあ溜まる前に真田が順平を押し倒していたためその必要がなかったということだけかもしれないが。
そろそろと勃ちあがりかけている自身に手を伸ばす。
「んっ」
目を瞑り手元の勃ちあがりかけた欲望に意識を集中させる。
「・・・・・く、っぁ・・・・・」
唇を噛み締めても僅かに喘ぎが漏れ出る。
「・・・ぁ・・・・・ぅ・・・・・」
白い粘液が溢れてきて滑りやすくなった欲望を強く上下に扱いた。
「・・・・・・っぁあっ!」
一瞬目の前が真っ白になって 後に残ったのは下半身のだるさと掌に粘りつく白濁、そして虚しさ。
こんなものじゃ我慢できない。
アイシテルと囁きながらも、身を焦がす快楽に耐えかねて泣き叫ぶ自分を無視して無慈悲なほど強引に貫かれ。
脳みそがシェイクされるくらい揺さぶられ、終わった後はくたくたになった躰で抱きしめ合いながら泥のように眠る。
自分はそうされたいのだ。
真田じゃなければ満足できない。
これで見捨てられたらどうしよう。
この躰は既に真田無しにはやっていけないというのに。
だいたい容姿も普通、成績なんて下から数えた方が早いような、どこにでもいそうな人間の自分に取り得なんてないし、そんな自分を(いろいろ性格に問題アリとはいえ)容姿端麗成績優秀ストイックさが女性のハートを鷲づかみな真田が自分なんかを選んだのか分からない。
受験シーズンに入ると別れるカップルが多いというどこかで聞いた話を今になって思い出してきた。
(どうしよう)
もしも二人のことをよく知っている人間が聞いていたらちょっと待てつっこみを入れたくなる内容を大真面目に順平はぐるぐると考え続ける。
もしも真田が自分のことを嫌になって別れたいと言ったとき、自分は笑ってはいと言えるんだろうか?
絶対に嫌だと泣き喚いて、暴れて真田を困らせてしまうのではないか。でもそれで真田の負担になって余計に嫌われたら哀しすぎる。
ああでもそれで真田を繋ぎとめておけるんだったらそれもいいかもな。顔を見るたびに嫌な顔されてまで一緒にいたいのかな、いたいんだろうな自分は。
どんどん考えがネガティブな方向に進んでいることに順平は気付かない。
別の意味で泣きそうになったその時―
「順平、ちょっといいか?」
声がした後、こちらがいいとも駄目とも応える前にドアが開いた。
思わず顔を上げたところでドアを開いた張本人の真田と目が合った。
一瞬の沈黙の後。
「うわあああ!!!」
「す、すまん!!!」
慌てて真田は後ろを向き、順平は足元に固めてあった急いで毛布を被り丸くなる。
きっと今の自分は耳まで真っ赤に染まっている。
今までにこれ以上に恥ずかしい姿を散々晒してきた自覚はある。けれど恥ずかしいものは恥ずかしい!
「オハズカシイトコロヲオミセシマシタ・・・・」
15分後、なんとか体裁を整えた順平は部屋に真田を招きいれる。もちろん部屋は換気のために窓は開放中だ。
恥ずかしさで我慢していた感情の堤防が決壊してちょっと泣いてしまったことは内緒だ。
「順平?」
真田は順平の表情を見て怪訝な顔をする。
「泣いていたのか?」
顎を持ち上げられ、目尻の涙を掬い取られた。
「気のせいッス」
慌てて顔を伏せた。
「気のせいという顔でもないだろう」
無言で首を振る。
「順平。白状するまでイけないように縛られたままで啼かされるのと、今ココで話すのとではどちらを選ぶ?」
順平にとっては死刑宣告にも聞こえるそれを真田はなんでもないかのように告げる。
「それとも白状するまで逆にイかせ続けようか?最初は気持ちよくてもどんどん「話します。話しますから」そうか。それはよかった」
「〜〜〜!!」
結局、順平は最初から最後まで洗いざらい喋らされた。
「オレだって馬鹿なこと考えてる自覚はあったッス」
真田の顔が見れなくて俯きながら喋る。
「けど、止まらなくて」
視線から身を守るために纏った毛布ごと大きな腕で抱きしめられた。
「どうしたら、信じてくれる」
哀しげな真田の表情に胸が締め付けられたが、長年の間に染み付いた自己否定の癖は簡単に捨てられるようなものでもない。
いつだって自分に自信が持てなくて、だからこそ虚勢を張って馬鹿みたいにおどけて生きてきた。
それが今こうして大切な人を傷つけてる。
「真田サンがずっと・・・・」
「ん?」
「ずっと一緒に生きてくれて、そしたら、いつかは・・・」
言いながらなんて贅沢な願いなんだと思う。
初めてできた守りたいと思える存在だった赤い髪の少女も、自分を殺せばいいと提案した親友も。
自分が大切に思っていた人間は消えていった。
そこに最初からなんにもなかったかのように、儚いまでにあっけなく。
現実はいつだって残酷だ。順平の思いなど無視して勝手気侭に動いていく。
だからこそ真田に乞い願う。
どうかあなただけは、置いていかないで。
END
あとがき
素直にエロに走ればいいものを、なんでシリアスに持ってくんだ順平ー!!
言いたいことを入れすぎてぐちゃぐちゃだあ(泣)
最初はね、ひとりえちなシーンを目撃した真田が襲うだけのストーリーだったのにさあ。
・・・・・なんでだろ?
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