「視線」

夕方のある日、ラウンジには異様な空気が漂っていた。
居るのは二人、ソファで小型のゲームをする順平と、真向かいには早めに食事を摂る真田。
別にいつもとどこも違わない筈だ。
しかし、どこか緊張感を孕んだ空気をしている。
よく見ると、順平はさっきからシューティングのゲームでゲームオーバーを連発し全く集中できていない。
しかしそれでも真剣な表情をして、否真剣な振りをして画面を見つめている。
実際にはゲームそっちのけで真田の方へ意識は集中しているのだが。
一方、真田といえば。常にじっと順平の行動を凝視というのがふさわしい様子で見ていた。
特に話しかけるわけでもなく、ただひたすら見つめている。
時折ゲームの電子音だけが響く室内。
真田は順平を見続けるが順平は全く気がつかない振りを必死でする。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
順平にとっては拷問に等しい時間がゆっくりと流れていく。
と、その時救世主が玄関のドアを開き現れた。
「ただいま〜って・・・」
(ゆかりっち、ナイスタイミング!!)
真田の注意が一瞬ゆかりにそれたのを見計らい一気にその場から逃走を図るために立ち上がり、自分の部屋へ向かおうと階段を目指す。
「順平!!」
ゆかりの呼び止める声がしたが、無視をした。


バンッ、と乱暴な音をたててドアを開け、自分の部屋に入るとすぐさまドアを閉める。
すると突然力尽きたように順平はドアにもたれかかりながらズルズルと座り込んでいく。
「なんつー目で見てくるんですか、真田さん・・・・」
たとえるならば誇り高き、しかし飢えに満ちた肉食獣―それも大型の―が獲物を見つめる瞳だった。
捕まればきっと逃げられないと思わせる目。
明らかに自分に欲情していた。
「前々からこっちよくみてんなー、とは思ってたけど・・・」
最初はただの自分とは全くタイプの異なる人間に対しての興味だったのだろう。
それが欲望の色に変わってたのは、いつからだっただろう?
「しかも真田さん、絶対分かってないし」
実は、それだけ熱い目で見ていても真田は自分が順平を欲していることに気がついていない。
気付いてたら、もうとっくに襲われているだろう、とは美鶴の弁。
周囲の人間どころか鈍い鈍いといわれる自分でさえ気がついているのに、何故本人がわからないのか。
謎だ。
いつまでこの状況が続くのだろうと疑問に思う。
「カンベンしてくれよ・・・・」
しかも何より一番信じられないのは真田の視線をどこか心地よいと感じる自分が存在することだ。
しかしいくら心地よかろうと何をするでもなくただじっと見つめられるだけなのだから困るわけで。
これが終わるんならもうおそっちゃってください。もう覚悟は決めました。なんて本人には言えるはずもなく。
こうして悩んでいる。
いっそ気のせいで終わらせられたらどんなに楽だったなだろう。
しかしそれをするには順平も真田の熱に当てられ過ぎた。
「あ〜、もう!!なんでオレが悩まなきゃならねえんだ!!」
順平の苦悩は続く。

 

その手に その唇に その髪に  触れられたら
邪魔な服全て取り去って  一つになれたら  なんて。


 

おまけ
「先輩、順平見つめてなにやってたんです?」(いい加減くっつけ!!見てて苛々すんのよ!!)
「・・・・?岳羽か。いや、アイツは食べたら体中どこでも旨いんだろうなって考えていたんだが」
「は?」(もしかしてワザとやってんの?この人)
「しかし、現実に食べるわけにもいかんしな。想像だけにしておいたが。・・・・?どうした、岳羽」
「い、いえ。何でもありません」(駄目だこりゃ)

 

end

あとがき
真田先輩はそこまで人を欲しいと思ったことがないので食欲と勘違いしちゃってますな話(違)それだけ。 明