昔々あるところに、不幸な紅い髪の女の子がいました。
女の子の寿命は決して永くはなかったので、大切なものをつくらないで生きてきました。
大切なものができてしまえば、死ぬのが怖くなるからです。
女の子が今より小さかったころ、そう仲間に教えられてもっともだと思い、その通りに生きてきました。
そういうわけで女の子はその日その日を気儘に楽しんで、いつ死んでも良いと思いながら仲間と暮らしていました。
そんなある日女の子は男の子に出会いました。
どこにでもいるような男の子ですが、女の子に近づこうと一生懸命努力しました。
男の子は女の子に恋をしていました。
そして女の子も男の子に恋をしました。
二人はとてもしあわせでした。
ところが、それを善く思わなかった女の子の仲間が男の子を殺してしまいました。
女の子は悲しみました。
しかし女の子が先程まで男の子だった物体に手を翳すと、みるみるうちに男の子に命が宿っていきました。
なんと女の子は魔女だったのです!
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ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ!!!!!!!!
頭の中で鳴り響く警告を捻じ伏せて、チドリは自身の命を順平に送り続ける。
多少の傷ならともかく人一人の命を冥府から呼び戻すなんて、それがどんなに無謀なことか分かってる。
順平が生き返ったとしても、自身はただでは済まないだろうことも。
事実順平の青白かった顔色が生気を取り戻していくに比例して自分の命の灯が急速に小さくなっているのが感じられた。
だがそれがどうしたというのだ。
(あなたがきえるほうが、よっぽど)
死ぬのが怖くないなんて嘘。
あまりに近づきすぎたソレに抗うことなどできなくて自分は目を背けていた。
今なら判る、きっと順平に逢うまでの自分は死を忌避するあまりに生きながらに死んでいた。
世界はスケッチブックに描いた絵と同じように奇怪なものにしか見えなかった。
全てがどうでもいいことで、いつか来る「明日が来ない日」を漫然と知っていた。
そんな自分のために順平は笑って、泣いて、怒ってくれた。
いろんな感情を傍で見せられるたびに魅かれていった。
万華鏡のようにくるくる変わるその表情が、そのココロが。
物言わぬ骸になるなんて、耐えられなかった。
自分の命と彼の命を秤にかけたとき、順平のほうが重くなってしまったのだ。
(あなたはいきてください)
どんなに悲しむだろう。
どんなに嘆くだろう。
どんなに・・・・・・・自分を責めるだろう。
順平はチドリと「一緒に」生きたいと言ったのだから。
チドリにそうさせてしまった自分を責め続ける。
順平はいつか立ち直るだろうけれど、そのココロには大きな大きな傷が付くだろう。
きっとそれは一生消えない。
(どうしてでしょうそれさえもわたしはうれしいのです)
病室に残したスケッチブックを眺めたとき。
二人が出会った場所を通りかかったとき。
順平が話したたわいもないことをふと思い出したとき。
いろんなカタチでチドリを思いおこして、その度に傷つくのだ。
いつもは笑っているその顔を歪ませて。
独りで哀しみを抱え込んで。
そうして順平はチドリを悼むのだ。
(ああそうか だってあなたがわたしをあいしていたというしょうこになるのですから)
頬に雫が流れ落ちる。
閉じていた瞼をうっすらと開くと、床に倒れたチドリを支え言葉を必死になって紡ぐ順平の姿が見えた。
チドリがどうなるかなんて、うすうす気付いてる筈なのに。
順平が言葉に詰まったのを確認して、再び目を閉じる。
とても眠い。
耳をすますと順平の。
とてもここちよい、いのちのこどうが、きこえた。
「チドリィーーーーーーーーー!!!!!!!!」
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女の子は男の子を生き返らすと同時に、ある呪いを男の子に掛けました。
決して女の子を忘れないと言う呪いです。
これから先男の子がどんな人間と恋に落ちようと、女の子を男の子は忘れられません。
この呪いに魔法はいりません。
いるのは、男の子のために、女の子が死んだという事実だけです。
これで女の子は綺麗なまま男の子の中で生き続けられます。
誰にも手が届かない世界の思い出は、とても綺麗なのです。
だから女の子は男の子へと微笑んで眠りにつきました。
笑顔さえも呪い変わることを女の子は知っていました。
それはとてもとても幸せそうな死に顔でした。
おんなのこはほんとうにしあわせだったのです。
おしまい。
あとがき
呪いをまじない、と読むかのろい、と読むかはヒト次第。
いや実際はこんなんじゃないと思うけどさ。
チドリンのペルソナ、メディアは惚れた男イアソンのためにすげえこと(父親を裏切って宝物の羊毛をイアソンに与えたり、弟の遺体バラバラにして海に投げ棄てたりetc)してたんで、こんな心境もあるかなー、的な。
最初は順平を呪うチドリン(魔女)が書きたかった、よーな?
似非童話のところは最初平仮名だったんだけど読み辛かったので泣く泣く漢字変換しました。
原案のチドリンはもちっと怖い感じでしたが、ソフトに書き直してみました。
そのうち原案のほうもUPできたらいいなー。
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