「無自覚な加害者、不埒な被害者」       



「カストールとポリデュークスって双子なんスよね」
「?ああ、そうだが」
トレーニング器具とプロテイン等が入っているらしいダンボール。
あとは必要最低限のものがあるだけの殺風景な真田の部屋。
そこに順平と荒垣と真田の3人がいた。
タルタロスがない日の過ごし方として、順平の最近のお気に入りは3年の先輩と一緒に過ごすことが一番に挙げられる。
たわいもない話をするときもあれば、今のように真田はトレーニング、順平はゲーム、荒垣は雑誌というように各自が思い思いに過ごすときもある。
順平は他人といると、話さなくてはという強迫観念にも似た思いを抱くことがよくあるのだが、この二人とだとそういう気持ちがおきず、とても心地よいのだ。
「でもその割にゃ真田サンと荒垣サン、好みとか性格とか正反対だよな・・・・・・」
双子ということを知っただけで、その先のカストールとポリデュークスの悲劇の末路は知らないようだ。
でなければこんな風に軽々しく言えないだろう。
そんなモンだろう、と荒垣が答えようとしたところで、あ、と順平が声をあげる。

「でも案外スキナヒトはいっしょだったりして・・・・・・」
さなだとあらがきがこおった!しかしじゅんぺいはきづかない!!

はい正解。順平君にはスーパーひとしくん人形をこっそり進呈。ただし肝心の「スキナヒト」は君なのだよ。
真田と荒垣は順平に恋をしている。けれど今のところ言うつもりはない、らしい。
「・・・・・・・・・ンなわけあるか馬鹿」
「ハハ、そうッスよね」
ある意味どんぴしゃりな言葉に固まっていた荒垣がなんとか声を絞り出すと、肩をすくめて順平はあっさり肯定する。
ちなみに真田は未だ凍結中。
「ま、そうなったとしたら互いが譲り合って結局見てるだけになるだろうな」
本当はそうなったとしたらというIF(イフ)ではなく、それが今の状況。
見てるだけで幸せなんていう殊勝な性格ではお互いないはずなのに、手を出せなかった要因の一つがそれだ。

やはりお互いは順平とは違った意味で唯一無二の存在で。それをさし置いてまで幸せになどなれないのだ。

そんな二人の心境などまったく気付かない順平はといえば。
「えーもったいない。男のオレからみても惚れそうなくらい二人ともイイ男なのにー」
荒垣のところまでいきぺとぺとと躰を触りまくっていた。
「顔もイイけどこのカラダ!ズリイよなあ、オレなんか頑張ったってこんな風に筋肉つかねえっつーの」
「お、おい・・・・・」
「あ、イヤっすか?んじゃあ真田サンのを」
慌てる荒垣の声に勘違いしたため真田に飛び火。
「えーと、胸鎖乳突筋にー、大胸筋にー、上腕二頭筋にー・・・・・・」
今度は真田のところに向かうと、いちいち触りながらその部位の筋肉の名前を当てていく。
「暇なときに保健の教科書で覚えたんスよー」
そう言えば保健体育は得意と聞いたことがあったな、と真田はぼんやり思う。
「昔ためしに鍛えたことあるんスけど、どーにも付かず仕舞いで。体質じゃねえかなあ」
ホラこのとーり、とシャツの釦を外し肌蹴る。
筋肉の付き方の違いなのだろう。
二人に比べると華奢ではあるが十分筋肉を備えている。が、それ以上に健康的な肌としなやかな躰垣間見え二人の視線を釘付けにさせる。
コイツ分かってやってんじゃねえか、と荒垣はこめかみをおさえながら思う。
これだけだったらまだ我慢できたかもしれない。けれど次の一言が崩壊しかけていた二人の忍耐に止めを刺してしまった。

「そーなったらいっそのこと3人で付き合っちゃえばいいんじゃないッスか?」

ぷち、と何かが切れる音を確かに真田と荒垣は聞いた。

一度決壊したダムはどんどん溢れる水量を増していく。欲望だって同じこと。ましてや押さえつけていた量が半端でないことだし。
順平は自分で自分が言ったことにつっこみをいれていて、二人が目配せしていることに全く気付かない。
「・・・・真田サン?」
いつのまにか真田が背後に回っていた。見つめていると爽やかな笑顔で座れと指示された。
「???」
言われたとおりに座ると両腕をとられ羽交い絞めにされる。
すると立てていた膝を割り目の前に荒垣が座る。こちらもやけに爽やかな笑顔だ。
順平のコンディションは昨夜の無理がたたり疲労。
対して真田と荒垣の二人はといえば、昨夜は探索に参加してなかったので通常。
こんな状態で二人に抵抗できるだろうか?いやできない(反語)
「まああれだ」
わかってない今がチャンス。一気に畳み掛けろ!
「「いただきます」」
二人とも声を合わせて順平を拝む。だって食べる前にはご飯に感謝してイタダキマス、これ常識。
というわけで、順平君は双子に躰の隅から隅まで全部美味しく食べられたとさ。


おわっとけ。