「爪」

情事の後のけだるい空気の中、二人はベッドのうえで転がっていた。
「ドーゾ」
順平は真田に傷薬を差し出す。
「?」
「背中」
ああ。と自分の背中を見て真田は納得した。明らかに人間の手で引っかいた跡がそこかしこに存在している。
最後の追い上げのときに順平が無我夢中になって爪を立てたせいだ。
しかし、シーツを必死で掴んでいた順平の指を解かせ背中に回さしたのは他でもない真田なのだから自業自得といえるだろう。
「俺は別に気にしないが」
むしろ、嬉しい。順平が自分をそれだけ求めてくれた証だし、自分もその分順平に赤い花を体中のそこかしこに咲かせたのだからおあいこだ。
「気にしてくださいよ・・・。頼みますから。ソレ、かなり噂になってるんですよ?」
「噂?」
「今までどんな女にもなびかなかった真田先輩がド派手な情事の跡を隠さずに部活している。よっぽど熱愛しているんだろうって。同じ寮に住んでるんだから相手を知ってるんじゃないかって散々いろんなヒトに問い詰められましたよ」
「・・・・」
「オレ、ソレ聞いて死ぬほど恥ずかしかったんですよ・・・・?」
うつぶせになり枕に顔を埋めた順平の表情はわからない。しかしきっと真っ赤な顔をしているのだろう。
無意識にやったこと、しかも誰にも知られたくない時間の証が本人の知らぬ間に大勢の人間に広まっていたのだから、仕方がない。
しかし、ただで消すのではつまらない。証を消す対価を本人からもらうことにしよう。
「わかった」
「じゃ・・」
「わかったが、塗ってくれないか?」
「へ?い、いや・・・」
真田にとって幸運なことに、また順平にとって不幸なことにこの傷薬は塗るタイプのものだ。
きっとなにも考えずにあったやつを持ってきたのだろう。
「悪いが、自分では届かないんでな。まあ、お前が嫌なら傷が残ったままでも「やります。やりますから」
「そうか」
自分もうつ伏せになり背中を晒す。
「じゃ、頼んだ」
「・・・・・・・」
隣で順平が嫌々体を起こす。ベッドがギシリと音を立ててこちら側に体重をかけていることを知らせる。
軟膏を指に絡ませた順平がおそるおそる、といった様子で背中を縦になぞる。ひんやりとしていて心地良い。
「いたく、ないですか?」
「ああ」
タルタロスではもっと酷い傷を散々負ってきたというのに、すまなさそうな声をする順平が可笑しかった。
順平に付けられる傷ならきっと何でも愛しいというのに。
「すんません・・・・気をつけます。これからは」
今日も気をつけようと思ってたんすけど・・・・。指を動かしながらそう続ける。
順平につけられた傷跡が一つ一つ丁寧に消されていく。
少し勿体無い気がしたが、また付けさせればいいだけの話と思い直す。
順平が気にしてシーツを今日のように掴むのなら、そんなことを忘れるぐらい快楽の極地へ堕とせばいいだけのこと。
(ああ、それともそれを口実にして、縛ってやろうか)
楽しみがこれでまた一つ、増えた。
「終わりましたよ」
どうやら考え込んでいるうちに治療は完了したようだ。
恥ずかしかったのだろうか、見れば、順平は既に枕に顔を埋めふて腐れている。
しかし順平には悪いが今の作業は無駄になってしまうことだろう。
体を素早く起こし体の線を隠していたシーツを剥ぎ取り順平の上にかぶさると、
ぐいっと再び興奮しだした真田自身を足の付け根に押し当てる。
「ま、まさか・・・」
「その、まさかだ。悪いが、もう一戦イクぞ」
「ちょ、もう無理ですって!!」
それこそ無理というものだ。恋人にあんな慈しむような手で、しかも裸で背中を触れられて我慢することなどできるはずがない。
「諦めろ」
「!!」

暴れる体をベッドに縫いつけ、真田は愛しい恋人にキスをした。


あとがき
傷薬(50HP回復のやつですね)が塗れたらこういうのできそうという妄想から生まれました。
っていうかこの二人最初から最後までベッドの上で真っ裸。(腰までシーツは掛けてましたけど)     明