「しっかしモテますねー。真田さん」
いつものように女子に囲まれていたのをあっさりと振り切ってオレと帰っているとき(コレ女子に最近恨まれてるんだろな)、
ふとそんな言葉が口をついて出てきた。
「それがどうした」
・・・・・?なんか今日の真田さん不機嫌だな。どうしたんだ?
「や、なんかうらやましいなーって。そんなにモテたら恋愛も悩まなくて済むでしょ」
「・・・・そうでもないさ」
真田さんは意外なことを言う。あ、でもこの人らしいかも。
「本当に好きになった奴以外に好かれたところで、嬉しくともなんともない。ソイツ以外はな・・・・」
そう言った、真田さんはひどく悲しい顔をしていた。
ああ、真田さんでもそう思えるヒトがいるんだなって思う一方で、なぜかひどく胸が痛んだことを覚えている。
あの時オレはなんて返事したんだっけ?
戦いもいよいよ大詰めになった1月の珍しく暖かい日。
その日もオレは真田さんと下校していた。真田さんとはけっこう気が合ったオレは、ちょくちょく時間を合わせて一緒に帰宅している。
この人といるとなんか暖かいキモチになるんだ。なのに
(き、気まずい・・・)
さっきまでいろいろ話していたのが一転、真田さんはぶすっとした顔をしてそっぽを向いている。
オレなんか気に障るようこと言ったかなあ?
『モテますね』みたいなこと言っただけだし。むしろホメてたんだけど。
そんなことチラチラ真田さんの方を見ながら考えていると、ポツリと冷たいものが頬に当たった。
「ん?」
触ってみればそれは水滴だった。その手にもまたポツリ。
そうしている間にもどんどん雫の落ちる間隔が短く、そして多くなってきた。
「やっべ。真田さん、走りましょう!!」
「あ・・・・?」
「雨ですって。ホラ早く!!」
珍しくぼうっとしていた真田さんの腕をがしっと掴んで走り出す。
寮まであと10分。頼むから間に合ってくれ!!
結果。間に合いませんでした。
途中から雨が本格的にザーザー降ってきやがって、寮につく頃には二人とも全身ずぶ濡れだった。
水も滴るいいオトコってか?ってオレ真田さんの手掴んだままじゃん。
「あ、すいません・・・」
「いや」
寮の玄関のドアを開ける。
「ただいまーって誰もいねえし・・・・」
ラウンジには電気がついていなくて誰も帰ってないことが分かった。
しっかし、服が体に張り付いて気持ちワリイ。・・・・上だけでも脱いじまおう。
さっさと上着を脱ぎシャツのボタンを外していく。
「おい!?順平!!」
「なんです?」
「あ、いや・・・・」
変な先輩。ま、いーや。タオルタオルっと・・・・あった。
戸棚のあたりに置いておいてよかった。前にもこういうことがあって困ったんだよな。
ソファ濡らしたらゆかりっちが怒るし。よかったよかった。
見つけたタオルを一枚真田先輩を見ずに後ろに放る。
「どーぞ。先輩、上だけでも脱いどいましょうよ。誰もいないんだし」
「・・・ああ」
うおっ!!シャツが水を吸って脱ぎにくい!!・・・・・なんとか脱げた。
はあー、タオルあったけえー。やっぱ暖かいっつても1月だしな。さっさと着替えるか。
オレ部屋に戻ります。そう言おうと思って真田さんに体を向けた。
真田さんは上半身はシャツ一枚でボタンを全て外して立っていた。
オレだけしか見ていないような瞳でじっと。
ぽたり、ぽたりと真田さんの髪から雫が体を伝って流れ落ちる。
張り付いたシャツがオレとは違って精悍な体をはっきりと浮かび上がらせる。
オレは真田さんの視線から目をそらすことができない。
外は雨で真っ暗だし室内も電気をつけてないから、まるで二人だけの世界にいるような変な気分になる。
なにも、喋れない。
雨の音はいつの間にか聞こえなくなって自分のどんどん早くなっていく心臓の音しか聞こえない。
それがどれだけ続いていたんだろう?
ふっと、真田さんの視線が外れた。
「オ、オレ部屋に戻りますね!」
「・・・・・・・・ああ」
なんだ、これ。
心臓がドキドキする。
部屋に戻るとしゃがみこむ。
さっきの真田さんの強い目が頭の中を駆け巡ってる。
なんだ、これ。
コンビニで初めて影時間に遭って泣きべそかいてたオレに手を差し伸べてくれた。
敵を倒す力強い拳。けど、俺の頭を撫でるその手は優しかった。
「順平」とオレの名前を呼ぶ低く落ち着いた声。
次々にいろんなシーンが浮かんでは消えていく。
チドリを亡くしてストレガの奴らに逆上したオレを必死で正気に戻してくれた。
顔が熱い。
鋭い閃光と轟音と共に現れる雷に、何度助けられただろう。
意地の悪い笑みを浮かべオレをからかったと思ったら、ふっと優しい笑みをくれた時。
ナンデ オレハ コンナニ アノヒトヲ オボエテイルンダ?
「マジかよ・・・・」
まるで恋してるみたいじゃないか。
・・・・・・・・・・・恋?
誰が、誰に?
オレが、真田さんに。
嘘だろ。自然と出てきた言葉に頭がまっしろになる。
真田さんはかっこよくて、こんな風になりたいって思わせるような先輩で、頼りになる仲間で。
それだけのハズだろう?
そう思いたいのに、否定できないんだ。
チドリのことは今でも好きなんだと思う。けど、よく考える前にチドリは逝ってしまったから、宙ぶらりんのままになってる。
チドリといた時は、笑わせたいとか、守りたいとか、そればっか考えて楽しかった。
けど真田さんは違う。
守ったり、守られたりだけじゃなく一緒に戦いたいんだ。
そりゃあ、あの人の方がずっと大人だしオレなんかの助けいらないんだろうけど・・・
それでも、一緒にいたいって思う。
・・・・・好きなんだ、オレは、真田さんのことが。
けど真田さんは男で。
オレも男で。
もしもオレが真田さんに好きだと言ったらあの人は嫌悪の表情でオレを見るだろう。
あのキレイな顔に。
そんなのは耐えられない。
「はは、何だよコレ・・・。気付いた時から失恋決定じゃん・・・・」
悲しいのに、自分を笑う声しかでてこない。
笑いながら涙が後から後からポタポタと流れてきて止まらない。
チドリといた時に似ている感情。
だけどこんなに苦しくなんかなかったんだ。
苦しく、なんか。
「真田さん・・・・」
呟いた言葉はあまりにも小さかった。
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