引き裂かれて床に丸まったパジャマ。
押さえられて痣になった手首。
「ああアアあアっっっ!!!!!」
絶望と一緒に出た悲鳴。
ぐちゃぐちゃと掻き回すたびに、何度も注いだ欲望が溢れ出る。
強く吸われてあちこちにできた鬱血。
・・・・・呆然と俺のなすがまままになっている順平。それは諦めにも見れる。
痛みでもなく、怒りでもなく、その漆黒の瞳に映る感情はただ一つ。
どうして
どうして
どうして
どうして!!
はっと飛び起きて目が覚める。まだ冬で室温も低いはずなのに汗をびっしょりかいていて気持ちが悪い。
外はまだまだ暗く朝が遠いことを示している。
後悔はしない。するくらいなら最初からしなかった。だが・・・・あの目が脳裏に焼き付いて離れない。
どうしてと問う瞳が。
「クソッ!」
シャドウを倒しても倒しても飢餓感か収まらない。
足りない―――こんなものじゃ。
一度抱けば少しは収まるかと思ったが、余計に順平が欲しいと飢えた心が叫んでいる。
以前ならばバトルの高揚感が俺の飢餓感を収めてくれた。
しかしそれも今は全く効果が無くなった。
歪んだ心が叫ぶ。
足りない。
もっと。
今から部屋に押し入って犯してしまえ。
口を塞ぎ。
細い手首を押さえつけて。
日に焼けた、しかし白い肌に所有印を咲かせ。
気の済むまでその肢体を貪れ。
心が手に入らないなら躰だけでも欲しいんじゃなかったのか。
一度お前はそれをしたんだ。
今更何を躊躇う?
そう喚く心を必死で押さえつける。
夜明けは未だ遠い。
人が遠巻きに自分を見ているのが分かる。
たぶん、今の自分は相当凶悪な顔をしているのではないだろうか。
分かっていてもどうしようもない。
どうする気もないが。
むしろ周りに寄ってくる人間が目障りに見えて仕方がないのだから、丁度良い。
順平以外はいらない。
しかし、本当に傍にいて欲しかった人間を俺自身が遠ざけてしまったのだ。
「いい加減にしろ」
そんな状態が数日続いたある日の昼休み、美鶴に生徒会室に呼び出されて言われた言葉がこれだった。
入り口には鍵がかかっており、誰かが入ってくる心配はない。
外の騒がしい空間と切り離されたこの部屋はまるで別世界だ。
「何をだ?」
言っている意味は十分過ぎるほどに理解していたが敢えて惚ける。
できるだけその話題には触れて欲しくないんだ。
「お前のその態度だ。殺気に怯えた生徒から苦情が続出している」
「気のせいじゃないのか?俺はいつもと変わらんつもりだ」
大体どこの誰が怯えようと俺の知ったことではない。
「明彦」
「・・・・・まあ、覚えておくさ」
覚えておくだけになりそうだが構わないだろう。
そんな俺の様子に諦めたのだろう暫く美鶴は俺を見つめた後溜息をついた。
「話はそれだけなら教室に帰らせてもらうぞ」
美鶴に背を向けドアに手を掛ける。
「言い忘れていた。明彦」
「なんだ」
「伊織が保健室に運び込まれたそうだ」
「・・・・!!」
「なんでも体育の授業中に倒れて・・・」
後はもう聞く気はなかった。
ドアを乱暴に開けると足が勝手に走り出す。
廊下がやけに長い。
倒れた。
順平が?
そんなまさか。
階段を駆け下りる。
嘘だ。
そう思うがはやる気持ちは抑えきれない。
やっとのことで目当ての場所に到達する。
「順平!!」
h件室のドアを勢いよく開けると、目の前にいた保険医に掴みかかる。
「順平は大丈夫なのか!?」
「しー!!」
掴みかけられた男が人差し指を唇に当てもう一方の手で部屋の奥にあるベッドを指差す。
そこには人が横たわっていた。
――――順平
「だいぶ落ち着いたんですから刺激しないでくださいよ」
男が何かを言っているが理解できない。
「さっきまで随分うなされていたんですよ」
ベッドの方へと歩いていく。
「友人が話すには最近は食べたものを全部吐いてたみたいですし。睡眠もとってないんじゃないんですか?」
青白い顔。以前見たときよりもやつれている。―――当たり前か。
傷つけばいいと。自分が望んだことの筈なのに。何故こんなにも辛い。
「も・・・・やめ・・・・」
うなされながら順平の口が動く。
―――さなださん。
「・・・・!!」
たまらなくなって保健室を飛び出した。
どう帰ったのか記憶が全くなかった。気が付けば自分の部屋に突っ立っていた。
順平の引き攣った顔。
傷ついた瞳。
必死に抵抗しする腕は押さえ込み。
衣服を引き裂き、熱で思うように動かせない躰に痕を付けた。
その結果があれだ。
俺はあんなものを望んでいたのか?
俺、は・・・・・・。
そのまま呆然と何時間も立ち続けた。
♪あなたの テレビに 時価ネットたなかー♪
「!!!」
突然部屋に音楽が鳴り響く。
♪み・ん・な・の よくのーともっ♪
音源は机に放置してあった携帯からだ。この音に設定している人間は一人しかいない。
一瞬記憶がフラッシュバックする。
――――おい順平!人の携帯いじくって何してる!
――――へっへーん!もう変えちゃいましたもんねー。
――――・・・・・何を変えた?
――――なんとオ先輩のオレのメール着信音は「時価ネットたなか!!」これでいつでも着たら一発でオレからだってわかりますよー。
――――もどす!今すぐもどす!
――――あー、なにするんっすかー!!
結局順平に押し切られてそのままにしていた。
だからこの音が鳴るはずはないんだ。
以前ならともかく。
震える手で携帯を掌に乗せ開く。
Eメールあり 1件
まさか!!
急いでボタンを押せば紛れもなく差出人の名は「伊織順平」だった。
『話があります。今夜は残ってください』
|